現場の「人手不足」を解消へと導くICT推進の秘訣とは

富山における介護DXのトップランナーとして、革新的な取り組みをされている社会福祉法人 おおさわの福祉会。平成29年に開設された『特別養護老人ホームささづ苑かすが』では、経済産業省のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実証事業に採択されるほか、介護ICTを導入するなど常に新しいことに挑戦し続けています。
今回は理事長の岩井広行さんに、介護DX推進のコツやケアカルテの導入効果についてお話を伺いました。

― DX・ICT導入に取り組むこととなった背景には、どのような想いがあったのでしょうか。

多くの方がお悩みだと思いますが、介護業界は常に人材不足。令和元年のある調査では、特養の72.9%もの施設で人員が不足しているという事実が明らかになっています。当施設も、ささづ苑かすが開設のときに求人をしても人が集まらないという状況に頭を悩ませていました。この状況を打破するため、他法人との差別化をはかり、就職希望者から選ばれるような魅力ある施設をつくりたい。そう考えていた時、お世話になっている方から「簡単にマネできてしまう取り組みは差別化とは言えないですよね」とアドバイスをもらったんです。絶対にマネできないこと・追いつくまでに相当の時間と労力がかかることを達成してこそ、『差別化』と言えるのだと。なるほどと思いました。そのアドバイスを念頭に、差別化に向けた取り組みのひとつとして、当時富山ではまだあまり浸透していなかったDX・ICTの導入・推進を本格的に進めることになりました。

― DX・ICT導入に取り組んだ結果、どのような変化がありましたか?

一番大きな変化は、やはり現場職員の負担が軽減されたことですね。それを可能にしてくれたのが『ケアカルテ』でした。導入当初は現場職員の間で戸惑いがありましたが、少しずつ慣れていき、導入後2か月で記録量が約2倍に増加(内容の充実度が向上)に対し、かかる時間は1/2を達成することができました。現場を革新的に変えてくれたんです。特に記録の入力を声でできるのが便利で、手を洗いながら・歩きながらでも記録ができます。今後は記録入力の8割を音声で行うことを目標としています。

ICT導入前後のオペレーション変化と記録の効果検証結果(クリックで拡大できます)

あとは睡眠センサーとの連携もとても助かっています。睡眠センサーで取られた記録がケアカルテに登録されるため、入居者の状況に合わせた睡眠改善の提案や、記録に基づいたケアについての議論が活発化しました。
睡眠状況のデータがいつも目に入るおかげで、「昨晩はよく眠れているな」といったアセスメント情報をもとに次の日の活動を決めることができます。また睡眠センサーによって利用者さんが起きているか眠っているかリアルタイムで分かるため、確実に起きているタイミングを狙っておむつ交換ができるようになりました。以前は起きているかにかかわらず決まった時間に巡回していましたが、今はそのような定時巡回はしていません。

睡眠状態データを活用した睡眠改善(クリックで拡大できます)

― ICT機器の導入にはコストなどの壁があると思いますが、どのように乗り越えてこられたのでしょうか。

資金確保の軸は、補助金の活用と経費削減です。
実は私たちがロボットやICT機器を導入した費用の半分以上を、補助金でまかなっています。おそらく多くの方は福祉系の補助金を中心に探していらっしゃると思いますが、実は経済産業省などの補助金でも活用できるものがあるんです。ぜひ、幅広い視点で情報収集されることをおすすめします。
また、経費削減についてですが、私たちの施設は経産省のモデル事業になっており、昨今の光熱費高騰の影響を受けつつも既存施設に比べ光熱費6割カットを実現しています。ICTを活用することで紙の印刷にかかる費用は大幅に削減、枚数もかつては月間1万枚だったのが6千枚になり、現在進行形で減らし続けることができています。

― 最後に、理事長として心がけていることを教えてください。

私が大事にしているのは「Do & Think」です。あれこれ考えるより先にまずはやってみようよと、職員にも伝えるようにしています。やってみてうまくいかない場合は、やり方を変えたりやめたりすればいい。この考えをモットーに職員からアイデアや意見を吸い上げるよう心がけています。時には未完成なアイデアが上がってくることもありますが、それでいいんです。アイデアを形にするのが理事長としてできることかなと思っています。アイデアを実現できた!という成功体験を積み重ねることはモチベーションアップにもつながり、それが法人全体の活力にもなる。このプラスの循環をこれからもつくっていきたいですね。

当記事の内容は、取材当時の情報です。

お話しを伺った方

岩井 広行さん

昭和55年3月国立大学経済学部を卒業後、30年間北陸銀行に勤務。
平成21年7月ささづ苑に現役出向し、施設長就任。
平成22年7月ささづ苑に転籍後、令和3年4月法人理事長に就任し現在に至る。
その他、公職等、全国老施協ロボットICT委員会委員長
富山県老施協会長、富山県社会福祉法人経営者協議会副会長
富山県社会福祉審議会委員、富山県社協理事なども務める。

保有資格:介護支援専門員

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