岐阜県羽島市にある障がい者総合福祉施設あいそら羽島で「口腔ケア」や「訪問歯科診療」を中心とした健康維持の取り組みについて、豊田理事長、纐纈(こうけつ)法人本部 法人事務局長 、箕浦主任にお話しを伺いました。
口腔内の健康へのこだわり
-入所者の口腔ケアの取り組みについて教えてください。
(豊田理事長)
口腔の健康に関しては、以前から近隣歯科医院の協力によって施設への歯科訪問診療や歯科医師の指示を受けた歯科衛生士による専門的な口腔ケアを定期的に行えるようにしていました。
さらに、2021年(令和3年)の障害福祉サービスの報酬改定で「口腔衛生管理に関する加算」が新設されることから、歯科衛生士の人員体制などを整えて、その年の4月から算定できるようにしました。
障害福祉サービスの口腔ケアは施設職員の歯科衛生士が行います。利用者さんの中には、歯科医師や歯科衛生士に緊張してしまうので、この施設職員(歯科衛生士)による口腔ケアが安心できるという方もいますね。
利用者さんの希望や状況に応じて、医療の専門的な口腔ケアと障害福祉サービスの口腔ケアを受けてもらえるようにしています。毎日のように歯科室または居室で、歯の治療や口腔ケアが行われています。
ここからは、障害福祉サービスの「口腔ケア」「経口維持」と医療保険の「訪問歯科診療」の具体的な内容について、箕浦主任にお話しを伺いました。
口腔ケアの実施から記録・請求につなげる
-障害福祉サービスの口腔ケア実施から記録・請求までの流れを教えてください。
口腔ケアは、歯科医師の指示を受けた歯科衛生士さんに月2回行なってもらっています。
記録についても歯科衛生士さんがケアカルテの「口腔衛生実施記録」に、PCまたはiPadで直接入力しています。その帳票には口腔ケアの内容とともに、歯科医師の指示内容や日ごろの歯みがきで具体的に気をつけることなど支援員へのアドバイスも確認できるようになっています。
毎月の請求前に、記録検索で1ヶ月分の実施記録を検索して、口腔ケアの実施回数を確認します。月2回以上という算定要件があるので、記録検索の結果から請求する・しないが簡単にわかります。検索条件は雛型に登録してあるので、すぐにチェックすることができます。
なかには口腔ケアを1回しか行わない方もいますが、実施記録から「口腔衛生管理加算」が算定できないことを事前に把握できています。
カスタマイズで入れてもらった「口腔衛生実施記録」の帳票を有効に活用していますよ。
ケアカルテで記録から請求までできますから、とても助かってます。
【加算対象】
入所者 52名(2022年5月末現在)
【算定加算】
●口腔衛生管理体制加算 30単位/月
●口腔衛生管理加算 90単位/月
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口から食べる楽しみを支援する
-口腔衛生の管理とともに、口から食べることにも力を入れているそうですね。
利用者さんにとって、食べることは楽しみですからね。できればずっと、口から食べてもらえるように支援しています。
あいそら羽島では2021年(令和3年)の障害福祉サービスの報酬改定で内容が見直された「経口維持加算」に取り組んでいます。
対象となる方は、必ず歯科の先生が判断しています。
入所利用者で口から食事をとっている方の中には、飲み込みが悪い方や早食い・丸呑み、偏食、食べこぼしなどがみられる方がいます。日ごろの様子から気づいた場合、ケアカルテに状況を記録しておいてから、先生に相談して判断を仰ぎます。経口維持の支援が必要となった方には、相談員・専門職・看護師・支援員が協力して、食事の様子観察をはじめとして日常生活で関わりながら対応しています。
歯科の先生によるスクリーニングテストの診断後に計画書を作成しています。スクリーニング・アセスメント、計画書もケアカルテに登録していつでも確認できるようにしています。利用者さんの食事に関する記録は、iPadで記録しています。
今のところ「経口維持加算」対象者は6名です。
毎月、対象者の経過や変化などについて相談員・専門職・看護師・支援員が意見を出し合って検討する場をもっています。そこで出た意見に対しては、歯科の先生からコメントや指示をもらって、プランに反映しています。
-毎月、プランに反映させていくのは大変ではないですか。
全然、大変じゃないですよ。
そこは、ケアカルテに計画書が入っていますから、複写して、変更になったところを直していけばよいので、毎月簡単にプランを更新することができます。
プランの更新や記録・請求していく流れはできていますから、これから対象者をふやしていきながら、対応していきたいと思っています。
【加算対象】
6名/入所者 52名(2022年5月末現在)
【算定加算】
●経口維持加算(Ⅰ) 400単位/月
●経口維持加算(Ⅱ) 100単位/月
歯科診療の体制も
-医療保険による歯科治療や口腔ケアも行なっているそうですね。
3名の歯科医師が交代で、平日(木曜日を除く)の9時ごろから入所者・ショートステイ利用者を対象に歯科治療を行なってもらっています。治療と一緒に医師の指示によって歯科衛生士さんによる口腔ケアも行われる場合は、一日がかりになりますね。利用者の希望や必要に応じて、受診した場合は医療保険からの請求になります。
歯科の先生たちに施設へ来てもらっているので、いつも過ごしている場所で治療を受けられるという安心感につながりますし、施設にとっても外部の歯科医院に付き添うという業務負担が軽減できています。
-スケジュールの管理はどのようにしてますか。
歯科医院側で管理してもらっていますね。
前回までの歯科治療状況によって「継続治療が必要」「口腔ケア実施」の予定がありますからお任せしています。あいそら羽島では受診を希望する利用者の名簿を作成するくらいですね。あとは、事前に利用者さんに歯科診療の日程をお知らせしています。
利用者さんは先生の来る日をカレンダーなどにチェックしておいて、当日は歯科室の前で先生を待っているんですよ!
また治療しているところまで来ることがむずかしい利用者さんの場合は、先生が直接お部屋に行って治療してくださってます。
-平日の木曜日を除いて毎日という体制は、かなり手厚いですね。
はい、なかなかないものだと思っていますし、強味になっていると思います。
木曜日を除いた平日は、誰かが歯科の先生に診てもらってますね。この体制が口から食べられることや元気でいられることにつながっていると思っています。
ひとりひとりの希望をかなえる
-これから目指していきたいことを教えてください。
(箕浦主任)
入所者の平均年齢が上がってきているんですよ。
70歳前後くらいで医療への依存度があがって、病院に行く・入院しなければならない、場合によっては亡くなってしまうこともあるのが現状です。
だからこそ、ひとりひとりの利用者さんがイキイキと過ごしていただけるように、これまで以上に個別のニーズに応えていきたいと考えています。
コロナ前には外出支援を行なっていましたが、年に何度か出かける機会をもってもらえるように「近くの商業施設でお買い物をして食事をする」や「大きな公園に行ってお弁当を食べる」などの計画をたてて、希望するものを選択してもらっていました。
これからは「海へ行きたい」という方には、これまでよりも自由に海に行ってやってみたいことを一緒に考えて、実現するプランをたてて対応していきたいですね。
(纐纈 法人本部 法人事務局長)
あいそら羽島は、開設して17年目に入りました。
平均年齢は、開所時の46歳から60歳となり、65歳以上15名・70歳以上7~8名という状況です。
今は「高齢障がい者施設」になってきています。
施設から出かけるのがむずかしくなってきている方も多く、精神的な側面の拡充にフォーカスして、人生において心に残るようなことをお手伝いしたいと考えています。
「これをやってみたい」という利用者の願いを個別に実現できるように施設全体で取り組んでいます。
今後、入所者全体の1/3~半分程度は入れ替わる可能性あります。がらっと変わることへの準備を行いながら、スピーディに個々のニーズをかき集めて、ひとりひとりに対応していきます。
インタビューを終えて・・・
「口腔ケアや歯科の治療を受けられる」ことが日常生活の一部になっていて、利用者さんの「先生の来る日をカレンダーにチェックする」や「歯科室の前で並んで先生を待っている」という行動につながっているように感じられました。自ら行動することを引き出していく取り組みに、これからも注目していきたいですね!
豊寿会さまでは、法人全体での「介護ICT化」や、高齢者施設サンライフ彦坂での「看取り室」、既存施設内に開設した「歯科室あおは」などさまざまな取り組みをしています。引き続きご案内していきます。