超高齢化社会を迎えている日本。支援の担い手不足が深刻化する中で、「支え合い」の社会システムを構築していくことが求められています。群馬県で介護保険事業から保育園の運営、配食サービスまで幅広い事業を展開する『認定NPO法人じゃんけんぽん』では、地域に「支え合い」が生まれる仕組みづくりにいち早く取り組んでこられました。そして、その取り組みにICTの活用は欠かせなかったとのこと。今回は、支え合いの仕組みづくりとICTの活用について、同法人でICTの導入を牽引されてきた真塩敦士さんにお話を伺います。
―ICT化の経緯について教えてください。
私が入社してまもなく、事業所にケアカルテが入ることになりました。ケアカルテを選んだ理由は、小規模多機能型の事業所にも対応していること、カスタマイズの自由度が高いこと、ICT補助金を活用できることだったと聞いています。スタッフの中からは「デジタル機器の使い方に慣れていないから、導入するとむしろ効率が悪くなってしまうのでは?」という声もありましたが、そのような不安に対しても丁寧にフォローしながら導入を進めていきました。
―ケアカルテ導入後、現場にはどのような変化がありましたか。
情報や書類について、以前は紙ベースで管理していましたから、毎日の事務作業はとても煩雑でした。ケアカルテを導入してからはその煩雑な事務作業が最適化・効率化されたことにより、作業にかかる時間が月340時間削減され、請求ミスも大幅に減っています。音声入力や写真の活用によって、記録業務も以前に比べてずっと楽になりました。また、ケアカルテの導入と併せてケアの質を高めるための研修や事例検討会なども定期的に開催してきた効果もあり、記録の中身も変わってきたなと感じます。以前は「トイレに行きました」という具体的ではない記録も恥ずかしながらありました。今では「トイレでは10秒ほど自力で立つことができたため、ズボンを自分で降ろすことができました。ズボンを履く際には職員が介助しました。」といった具体的な内容の記録が増えましたし、そのおかげで記録を多面的に分析できるようになりました。
―理念の実現に向けてもICTを活用していらっしゃると伺いました。どのような理念に向けて、どのように活用しているのでしょうか。
私たち法人の理念は「住み慣れた地域でその人らしく”生ききる”」を支援すること。そのために「自助・互助・共助」で支えるシステムを構築することをミッションとしています。「共助」とは介護保険制度を活用したフォーマルな支援、「自助」「互助」は介護保険制度外の支援、例えば地域での助け合いといったインフォーマルな支援を指しています。その中でICT化を進めているのは介護保険事業にあたる小規模多機能事業所などで、おかげさまで業務の効率化は実現できていますが、目指しているのは効率化のその先にある「ICT化によって介護の量と質を向上すること」です。利用者さんと向き合う時間を増やしたり、「この利用者さんはどんな人だろう?」と掘り下げたり、データを活用してより質の高い介護を提供したりすることが、私たちの目指す「その人らしく”生ききる”」にもつながってくるのかなと。最近では、地域とのつながりづくりなど、介護保険事業以外の場にもICTを活かせるようになってきていると感じます。
―介護保険事業以外にもICTを活かせるというのがとても興味深いです。具体的にはどのように活用されているのでしょうか。
ケアカルテのカスタマイズで、「気づき」「地域とのつながり」という項目を記録できるように機能追加していただきました。こういった項目が記録として残せると、利用者さんと関わる際の視点に変化が生まれますし、実際のケアに活用することもできます。これからの時代、生きていくうえで地域とのつながりがとても重要な要素になってくると考えています。
―共生型社会に向かっていく必要があるという認識は広がっていると感じますが、現場ではどのように感じていますか。
私個人の感じるところとしては、地域のつながりがどんどん希薄になっているのではないでしょうか。例えば私が小さい頃は、地域の行事にしょっちゅう出掛けたり、自宅には近所の大人が毎日のように来たりしていたものです。ところが今は、地域の行事も少なくなりましたし自治会に加入しない方も増えています。そうしてつながりが希薄になるほど、支援を必要とする人が増えていくのではないかと懸念しています。
―実際に支援を必要とする方が増えている印象はありますか。
私たちは高齢者だけではなく、子どもを含めた幅広い世代への支援もしているのですが、実際に支援が必要な方は増えていると感じます。例えば子ども支援として、夏休みに開催している「宿題カフェ」や、小学生だけでお留守番をする子どもへお弁当を届けつつ様子を見守る「こども見守り弁当」などのサービスは、ここ3年で利用される方が倍近くに増えています。また精神障害を有している方や困窮家庭の方など、居住支援を必要とする方もいらっしゃいます。ご高齢者だけではなく、若年の方(生産年齢人口:15〜64歳)でも多くの困りごとを抱えている方がいらっしゃると痛感しています。
―じゃんけんぽんでは地域の居場所づくりも大切にされていると伺いました。そういった困りごとを抱えた方々が来ることもあるのでしょうか。
じゃんけんぽんがみなさんの力を借りながらつくってきた居場所は、子どもからお年寄りまで誰でも集える「ごちゃまぜの場」です。困っていることはなんでも相談できる相談拠点としての役割も担うこの場所では、困っている人が助ける側の人になることも起きたりするんです。例えば一人でさみしい思いを抱えて居場所に来ていた方が、子どもの預け先がなく困っている方に出会って「それならおれが子どもを見とくよ」と申し出る。そんな風に自然と助け合いが生まれる場になっています。
―介護保険外のサービスを使って支えが必要な方を支える。そうして自助や互助につながっていくのですね。地域の協力者の方がじゃんけんぽんの人材になっていくなど、人材確保の面で助けになることもありますか。
居場所を利用されていた地域の方がボランティアをしてくださるようになったり、中には職員になってくださった方もいたりしますね。職員だけではカバーできないこともありますが、そういった時はボランティアの方々に助けていただいています。利用者さんのご家族の中にもサポート側にまわってくださるようになった方もいらして、とてもありがたく感じています。
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―助け合いの関係が自然に発生しているのがとても素敵だなと感じます。そのような関係を生み出すのに何かコツはありますか。
隠れた人材を発掘しようとする視点を職員みんなが持っています。じゃんけんぽんが管理している畑があるのですが、畑作業をしながら近くを散歩している方に声をかけたり、利用者さんの送迎時にお隣の方や近所の方に声をかけたりすることを心がけています。これからもそういった地域との関わりを大切にしながら、「地域で”生ききる”を支える」法人であり続けたいと思っています。