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Long-term care Efforts

介護の取り組み

離職率はわずか2%!
ICT活用による人材育成の秘訣とは

社会福祉法人 清心福祉会 特別養護老人ホーム ファミリーマイホーム

東京都八王子市を中心に全国各地で、30を超える児童福祉施設や高齢者福祉施設を運営する『社会福祉法人 清心福祉会』。今回お話を伺ったのは、特別養護老人ホーム「ファミリーマイホーム」の田代施設長です。
同施設では、令和2年度に約15%といわれていた介護の離職率を、2%まで下げることに成功。
離職率を改善し、定着率を上げたその秘訣についてお話しいただきました。

離職率を2%まで下げた人材育成

―「離職率の改善」のために、どのような取り組みをされていたか教えてください。

ファミリーマイホームは定員100名の比較的大きな施設です。私たちの施設でも5〜6年前までは、新人職員が長く勤めないという課題がありました。今では、家族の事情など止むを得ない理由で退職する職員はいても、育成制度への不満や雰囲気が合わないなど施設側の理由で退職する職員はほとんどいません。
令和4年度になってから離職した介護職員は0名です(2022年10月現在)。

とはいえ、目新しい対策をしているわけではありません。育成制度の柱は「マンツーマン制度(エルダー制度・OJT)」と「育成計画書の共有」です。
マンツーマン制度ですが、はじめは導入に抵抗がありました。シフトが組みにくいというデメリットがあるので、反対意見が出るのも仕方ないことだと思います。
しかし、教育担当を決めて育成側の研修を行う中で、職員たちに受け入れられる形になっていきました。
育成計画書は、車の教習所と同じように段階でチェックする方式で、どこまで育成が進んでいるか、その人にどんなふうになって欲しいのか、誰が見てもひと目でわかるようになっています。作成は大変でしたが作って良かったと思います。

私たちの施設には中途採用の職員も多くいますが、しっかり研修することに安心感をもってくれているようです。他の施設を経験してきた職員にはそれぞれいろんな“色”がありますが、「ファミリーマイホームではこうですよ」というすり合わせを丁寧にできている点も良かったと思っています。

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―ICTは人材育成の場でも役立っているのでしょうか。

まずケアカルテを導入したことで、技能実習生や特定技能人材など海外からの職員が、記録やチェックの業務を行えるようになったことは大きな効果でした。
あとは思いがけず採用にも良い影響がありました。以前ある中途採用の面接で「ケアカルテを導入されているんですね。以前勤めていた施設でもケアカルテを使っていた…」という話をされたことがありました。ICTの活用を通常業務に落とし込めていることが、採用の面でも役立ったことに驚きました。

そして間接的にではありますが、離職率の低下にもICTが関係していると思います。
まだ第三者評価による数字としては結果が出ていないのですが、職員との面談などで、ICTが職員の満足度を上げてくれているのを感じます。施設側がICTの導入に積極的なことや、労働環境を改善しようと取り組んでいるプロセスをきちんと見せていることも満足度にツナがり、結果として離職率を下げているのではないかなと思っています。

 

―お話を伺うと、ICTなどモノだけがあっても体制が整っていなければ離職率低下にはツナがらないという印象を受けました。

そうですね。ハード面として、ICT機器の導入やスタッフの補充などの部分を整えたことは効果がありました。ですがまずはソフト面、仕組みを整えることが重要だと感じています。
たとえば施設の大規模改修をした際も、改修のテーマを職員と一緒に考えました。そういった過程を共有できる場を設けることも大事ですよね。

 

―人材育成において、課題に感じていることはありますか。

システム導入前より勤めている中堅からベテラン、そして他の職種のスタッフに対しても、育成となる何かをもっとしてあげられないかなと考えています。
また、今後は定年退職も出てくるため、スタッフの循環も課題となりそうです。

失敗しないICTの導入

―「失敗しない」ICT導入というと、気になる方も多いテーマだと思います。そもそもICT導入の失敗としては、どういったことがありますか。

介護業界で「あるある失敗談」として語られることが多いのは、ICTを導入したものの結局うまく活用できなかった、というケースです。

例えばパワースーツ。これ自体は職員の身体的負担を減らす、とても魅力的な機器です。私が東京都社会福祉協議会の研修委員会で委員をさせていただく中で、導入したという声をいくつも耳にしています。ですが話を聞いてみると、導入に失敗してしまったケース・成功したケースの両方があるようでした。

失敗したケースは、管理者側が現場のためを思って導入したにも関わらず、結果として置き物のようになってしまった…というもの。一方成功したケースでは、導入する目的やどういった場面でどのように使うか、具体的イメージが職員と共有されていました。成功例においては今や、パワースーツを装着して介助をすることが当たり前の風景として定着しているようです。

こういった例から、ICT導入の成功と失敗の分かれ道は「業務に落とし込めているかどうか」。
つまり、ただ導入するだけではなく、目的を達成するための活用方法を業務レベルで具体化できているかが、肝になってくるのだと感じています。
―そういった例を踏まえて、ファミリーマイホームではどのように導入を進められたのでしょうか。

私たちがICT導入を進めるにあたり最初に確認したのは、「ICTを導入する目的は何か?」ということです。ICTはあくまでもツール。目的を達成する手段のひとつに過ぎません。ですから、導入することで満足してしまわないよう、「手段が目的化」してしまわないよう、心がけました。

それでも失敗がなかったわけではありません。
現場の混乱を避けるため、補助金で購入した機器の数々はひとつひとつ段階を踏んで導入していったのですが、最後に導入したインカムはバッテリーの持ちが悪くて。おそらく、新品のまま3年ほど眠らせてしまったことが原因だと思います。小出しに導入することで、こういったことも起きるのだと勉強になりました。もっと現場を信頼して早い段階で導入しても良かったかなと反省しています。

ICTの3つの活用法

―導入したICT機器は、現在どのように活用されていますか。

特に活用しているものが3つあります。
ひとつは見守りセンサーです。センサーにもいろいろありますが、できる限りプライバシーが守られるよう、利用者さんの様子をシルエット動画で確認できるセンサーを選びました。介護現場は常に多忙で、同時に何人もの方のケアを受け持っている中でナースコールが鳴って…という状況も起こります。そのような中でも、見守りセンサーがあれば今すぐ対応が必要かどうかを即座に判断できますから、介護職員の安心にツナがっています。

生体反応センサーは、看取り介護の場に欠かせない存在になってきています。リスクが高い方の数値を24時間測定しており、変化が起きた時により早く対応できるようになりました。

ケアカルテは、記録と情報共有の場面で活用しています。ここ1、2年で現場職員も記録の入力には慣れてきたようです。今後は記録の質を高めること、そしてその記録をどのようにケアに結び付けていくかを考えていきたいですね。

 
―ICTの導入で、特に経営や運営面で効果的だった部分を教えてください。

新型コロナウイルス対策に、ICTの恩恵は大きいと感じました。
感染者が出れば体温やSPO2(血中酸素飽和度)を計測する業務、保健所やご家族への報告業務も増えます。もしICTが無かったら、汚染区域から手書きのデータを持ち出さなければならなかったり、データを逐一探し出して手書きして報告しなければなりません。人と人との関わり合いが基本の介護現場でも非接触という感染症対策ができたのは、ICTがあったからこそだと思います。

お話を聞いた施設

社会福祉法人 清心福祉会 特別養護老人ホーム ファミリーマイホーム
サービス 介護老人福祉施設、短期入所生活介護、介護予防短期入所生活介護、通所介護
住所 〒192-0012 東京都八王子市左入町373-1
電話番号 042-692-1121
サイトURL http://www.seishinfukushikai.jp/familymyhome.html

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