『ベトナムの介護事情』をテーマに紹介するこちらのシリーズ。
第3部となる当記事では、ベトナムのホーチミンで介護サービスの土台を築こうとしている「Vinh Son(ビンソン)教会」の取り組みをお届けします。
ビンソン教会では身寄りのない高齢の女性を対象に、キリスト教の信仰に基づいて無償で介護を提供しており、日本の入所施設と同じように教会に入所してから亡くなるまでを過ごします。
教会には利用者102名、職員20名(2022年8月時点)が暮らしており、弊社のベトナム現地法人であるケアコネクトベトナム(CCV)とご縁があります。
CCVでは日本の訪問介護サービスをベトナムでも展開させるため、日本式介護を伝承する「Saino Kaigoチーム」を創設。その「Saino Kaigoチーム」の活動の一環としてビンソン教会に訪問し、介護技術を伝えるボランティア活動をしています。
ベトナムの終の棲家「ビンソン教会」
ビンソン教会を訪れると、ノンラーと呼ばれる伝統的なすげ笠をかぶったシスターが私たち取材班をあたたかく迎えて、施設案内をしてくださいました。
施設内はとても広くて清潔感のある快適な空間。エアコンはなかったものの、窓を開ければ風が通り抜けるので、過ごしやすい環境であることを肌で感じました。
廊下には、一人で歩く利用者やシスターたちを手伝う利用者、自分の食事を準備したりミシンで裁縫する方の姿が見られました。施設には自立度の高い方が多いようです。
まずは、ビンソン教会で暮らすシスター長に施設やシスターの特徴をインタビューしました。
Q. ビンソン教会の特徴を教えてください。
自立度の高い方からターミナル期の方まで利用されていて、利用者が過ごす居室は自立度によって部屋を分けています。ここでは高齢の女性たちが穏やかな時間を過ごしており、最期まで大切にケアを行い、教会のなかでお葬式を執り行います。
Q. シスターの特徴を教えてください。
この教会はホーチミンにありますが、地元出身のシスターはあまり居ません。ほとんどのシスターは地方からスカウトされてここへやってきます。彼女たちは介護の知識を専門的に学ぶことなく、介護をしています。
ビンソン教会では、さまざまな自立度の方が入所していることや度合いによって部屋を分けるなど、日本の介護施設と共通する部分が多く見られました。
シスターについては、介護の専門的な知識や技術を学んでいない状態で介護をしているため戸惑いや不安を抱えているとのことでしたが、利用者としっかり向き合い、真剣な眼差しで介護するシスターの姿が私の印象に残りました。
ビンソン教会の”暮らし”
教会には居室や配膳室、トイレやレクリエーションスペースなど日本の介護施設と同じ設備が用意されていました。
一方で日本との違いもあり、中でもとくに驚いたのは「セラミック製のベッド」です。
大理石のような質感のベッドの上には、マットやクッションなどは敷かれておらず、利用者は直接その上で過ごしていました。
Q. なぜセラミック製のベッドを使っていますか?
教会があるホーチミンは一年中暑いため、ベッドをセラミック製にすることで涼しく過ごすことができるからです。
Q. 中心にある蓋のようなものは何ですか?
これはトイレです。寝たきりの利用者はベッド上で排泄をしたり、シャワーを浴びる必要があるため、このような作りになっています。衛生面には大変気を遣っているので、独特の臭いはほとんどしません。
シスターがいつも助けてくれるので充実している
教会を見学していると、一人の女性利用者に出会いました。
彼女は日記を書いており、そのページにはたくさんの文字が書き綴られていました。
「楽しいことも悲しいこともあるけれど、シスターがいつも助けてくれるので充実している。欲しいものは何もありません。ペンがあればそれで充分。」
シスターが「とても真面目な方」だと話す彼女は、入所前は看護師をされていたといいます。彼女の言葉や表情から、ビンソン教会が利用者にとってあたたかく心地良い場所であることがうかがえます。
シスターが伝えたい介護への想い
最後に、身寄りのない方を受け入れ、慈善活動を始めたきっかけや「Saino Kaigo」を受け入れた理由、思い描く将来などをシスターにインタビューしました。
Q. 活動を始めようと思ったのはなぜですか?
身寄りのない方の道端での暮らしを見かけ、救いたいと思ったことがきっかけでした。
Q. 日本式の介護「Saino Kaigo」を受け入れた理由を教えてください。
シスターに日本の進んだ介護技術を学ばせたいと考えました。でも、一番の理由は利用者の方々に心地よく過ごしてほしかったからです。給料や報酬に関係なく、懸命に接してもらえるボランティアの方から介護を受けることで、利用者が愛を感じられるのではないかと思いました。
Q. 受け入れてからどのような変化がありましたか?
利用者からは「いままでこんな風に他人に親切にされたことはなかった」といった喜びの声を聞いています。
そして、介護するシスターたちの介助方法も変わり、日本式介護を学んだことで自ら勉強し、自発的に改善しようとする意識が芽生え始めました。
Q. これからの展望を聞かせてください。
現在は入所希望の問い合わせを受けていますが、今の規模では全てを受け入れることができないので、近隣に施設をもっと増やしていきたいです。足腰が弱い方や歩けない方のために平屋の施設を建てたいと考えています。
インタビューを終えて…
ビンソン教会では信仰に基づいた無償の介護を提供しており、今度もこのような活動を増やしていきたいとシスターは仰っておりました。
一方で、まだ介護技術を学ぶ環境が十分に整っているとはいえず、知識の乏しい状況に不安をおぼえてしまうシスターたちの様子もうかがえました。
そのようなシスターの不安を解消するために「Saino Kaigo」を受け入れ、介護の質をより高める取り組みを行うことで、利用者自身を尊重する心地の良い時間の提供をされているように感じました。
シスターの愛を持って接する姿勢がとても伝わるインタビューとなり、筆者にとっても有意義な時間となりました。
あとがき
全3部作でお届けしました、シリーズ『ベトナムの介護事情』の取材記はこれで以上となります。皆さまお楽しみいただけましたか。
第1部では、ベトナムの若者中心に「ベトナムの介護観」を取材し、介護サービスが国としてあまり浸透していなくても、自分に介護が必要になったときの考え方は日本と同じで「家族に迷惑をかけたくないから施設を利用したい」という意見がほとんどであることがわかりました。
第2部の取材では「介護技能実習制度」に着目し、送り出し機関「SAIGON INTERGCO」の取り組みを紹介しました。SAIGON INTERGCOではベトナムから訪日する介護技能実習生が、実習先で感じるギャップを埋めようと介護業界の実態や本来の魅力を伝える取り組みをしています。さらに、問題解決へと導くだけでなく、実習生が帰国後も介護業界で就職できるように、ベトナムで老人ホームの運営にも尽力されていました。この取り組みに魅力を感じたと同時に実習生を受け入れる日本でもギャップを埋める取り組みが必要だと感じました。
さらに、第3部では日本式の介護技術を取り入れ、福祉・慈愛の想いをもって活動するビンソン教会の取り組みを紹介しました。活動の発展で家族以外の第三者による介護の必要性が認知され、さまざまなサービスが誕生することで、国全体の介護の変化や技能実習生が帰国した後の活躍の場を設けることにつながるのではないでしょうか。
弊社、ケアコネクトジャパンとケアコネクトベトナムはこれからも両国の介護サービスの発展に寄与していきます。
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