静岡県静岡市清水区のデイサービス施設「スマイル辻」。2020年のオープンから徐々にリピーターを増やし、現在は月平均で90%近い稼働率を誇っています。顧客満足度を高めた要因が、ICTの推進と自立支援への情熱です。今回はスマイル辻の立ち上げを行なった萬田勝彦さんと、同施設の管理者・小林亮太さんにお話を伺いました。
こだわりを詰め込んだ渾身の設備
ー事業所のオープン時はすでにコロナ禍で大変な状況だったのではないでしょうか。
(小林さん)
出だしは苦労しましたが、自分たちがやるべきことをやっていれば、お客様に評価していただけるという自信はありました。
(萬田さん)
スマイル辻では開設当初からケアカルテを導入し、そのほかのICT化も積極的に行いました。また、設備にもこだわりを詰め込みました。たとえばヒノキ風呂がある入浴室は、ドアが2つあって、静養室に直接行けるようになっています。その結果、入浴直後に他の利用者さんと会わなくて済むような仕組みができました。弊社は訪問入浴からサービスを行なってきた歴史があって、羞恥心への配慮というのはこだわっているひとつです。
(小林さん)
施設の庭では、階段昇降訓練や立ち上がり動作、バランス訓練を行う道具も設置しています。ご自宅の階段などに近い高さで15~20センチの段差を設け、機能訓練ができるように設計しました。
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ICT化によって生み出された時間と新たな企画
―稼動率は90%を超えることもあるそうですね
(小林さん)
定員32名に対して、1日平均顧客数が29名。1人あたり月間で9〜10回利用されています。
―稼働率が増えた要因としては設備の充実度が大きいのでしょうか?
(萬田さん)
もちろん、設備の充実度も大切ですが、一番大事なのはサービス提供の中身です。
(小林さん)
スマイル辻は現在「アクティブ、エンジョイ、ウォーク、ミュージック」の4つの視点に重きを置いて、サービスの充実を図っています。たとえば「歩行しながら音楽を楽しむ」「活動を楽しむ」のように、それぞれの要素をかけ合わせた企画を立て、あらたなレクリエーションの創出などを行なっています。
(萬田さん)
音楽では、弊社グループ全体でプロの歌手を招いた音楽イベントも開催しています。
過去には八代亜紀さんや堀内孝雄さんのオンラインコンサートを実施しました。
(小林さん)
実はオンラインコンサートは、グループ全体がICT化を進めたことによる副産物なんです。
(萬田さん)
ケアカルテの導入時に、タブレット端末や大型モニター、Wi-Fiなどのネットワーク環境も整えたことで実現できた企画です。オンラインコンサートでは、スタジオから生配信で各事業所をつなぎ、ビデオチャットを通じて歌手の方とお客さまとの交流も行なっています。ICT化がなければ実現しなかった企画ですね。
(小林さん)
音楽イベントの日は人気で、ケアマネージャーさんが新しいお客さまを連れてきてくれるなど、稼働率アップにツナがっています。
―スマイル辻では、動画制作も自前で行なっているそうですね。
(小林さん)
弊社には動画制作が得意なスタッフがいて、楽しみながら作っています。音楽体操など、すでにネット上にあるものを活用する手もありますが、知らない人たちが踊っている姿よりも、馴染みのある職員たちが踊っている姿のほうがお客さまが喜んでくれます。タブレット端末や大型モニターなど、ICT機器が揃っていたので「すぐに実施しよう!」となりました。
―ICT化により、他にどのような効果が出ましたか?
(萬田さん)
たとえば機能訓練。これまでは、職員によって持っている知識の差がありました。スマイル辻には機能訓練士がいますが、別の事業所では不在のところもあります。そうなった時に、グループ全体でサービスの質にも差が出てきます。ICT機器の導入により、動画を活用するなど情報が全体で共有しやすくなりました。動きに関する業務は動画のほうが圧倒的にわかりやすいです。
(小林さん)
手書きの入力にくらべて、介護記録にかける時間が圧倒的に楽になったことも大きいです。その分、お客さまのことを考える時間が増えました。「アクティブ、エンジョイ、ウォーク、ミュージック」の企画も、そうした時間から生まれました。
自立支援を目覚めさせる。介護事業者としての願い
―ICT化以外で、独自の取り組みがあれば教えてください。
(小林さん)
歩く距離に応じてポイントが貯まるポイントカードを用意しています。ポイントが貯まることで、ちょっとしたプレゼントがもらえる企画です。僕らもそうですが何か目指す目標があると頑張ろうという意欲が湧きやすくなります。
(萬田さん)
意欲がないと自立支援は遠くなってしまいます。そこを目覚めさせるのが狙いです。自立支援の維持・向上は介護において重要な役割です。デイサービスには、本来行きたくないと思っているお客さまも少なくありません。しかし、いろんな事情があってここに来ます。だからこそ我々は、いろんなことにチャレンジしてもらって自立支援の維持・向上のお手伝いをできれば、最終的にご家族の負担が減っていきます。そういったことにも目を向けていく必要があると考えています。
(小林さん)
最近は「スマイルカフェ」と題して、月に数回、カフェのようなメニューを用意してお客さまに好きな飲み物を選んでもらう企画をやっています。反応も非常によくて、キャラメルフラペチーノは大人気でした。
(萬田さん)
これも実は狙いがあって、お客さまが家に帰り「フラペチーノ」といった言葉が飛び出すと、ご家族は驚くと思うんです。「じゃあ今度、一緒にスタバに行こうか」なんて会話がはじまる。
(小林さん)
そうやって、スマイル辻を利用して、家族の雰囲気もかわっていってくれたら嬉しいなと思っています。話題を提供することによって、家に帰った時にお客さまが行ってよかった、ご家族も利用してよかったと思ってもらいたいです。
―さまざまな取り組みが稼働率上昇にツナがっているわけですね。
(萬田さん)
「自立支援」の意味合いを理解して、職員とお客さまの両方に目を向けてもらいたいと思っています。私たちがやるべき仕事について考えたとき、以前は困った人に手を差し伸べようという精神が強かったです。ですが、差し伸べるだけではなく、その人を支援していかなければならないと思っています。
ただ預かって、すべて私たちがお手伝いしてしまうと、どんどんその人の能力が落ちていきます。たとえば、デイサービスに通い始めてから自分で頭が洗えなくなってしまうという話があります。ご家族が久しぶりにお風呂に入ろうとしたとき、おばあちゃんがずっと頭を下げて洗髪されるのを待っていたと。それでは意味がありません。
「自立支援」自体は本来やるべきことですが、それが実はできていないところも多いのが実情です。機能訓練ひとつにしても、普段の生活の視点を取り入れるなど、全体を見ていく必要はまだまだあります。介護事業者として、本来の姿を目指し稼働率を上昇させることが、私達にとっての願いです。