JR岐阜駅前にそびえるシティタワー43の3階にある「シティタワー・リハビリサロン」は
「自立支援・自己選択・自己決定」をモットーに介護サービスを提供する、選択制のプランが特徴のデイサービスです。その場しのぎになりがちだったアクティビティやトレーニングを、利用者さんの自主性や主体性を尊重した内容にすることで、サロンの稼働率は85%を達成。秘訣はスタッフの動きを“変える”「動き方改革」にあったといいます。
その具体的な取り組みについて、施設長の川瀬由起子さんにお話を伺いました。
―働き方改革ではなく「動き方改革」という言葉が印象的です。
「動き方を“変える”」その具体的な取り組みについて教えてください。
シティタワー・リハビリサロンは、やりたいことを好きなように選択できる「マイプラン」が特徴のデイサービスです。利用者さん35名に対し、スタッフ7名で運営しています。
以前は当番制で、全体の統括・ケア・リハビリ・アクティビティなどの役割をスタッフで順番に回していました。ですが、どの利用者さんが何をしようとしていたのかを記録に残せておらず、その日担当となったスタッフは「昨日のアクテビティの内容は何だったのだろう?」と想像するだけで「じゃあ、今日はおやつでもつくろうか」とその場の雰囲気で決めてしまうことが多かったのです。そういった場当たり的なサービス提供はサロンの稼働率に良い影響はなかったですし、何より面白味に欠けるとも感じていました。
ちょうどその頃、100名規模のデイサービスを見学。その施設ではとてもシステマティックに物事が回っていて、スタッフも利用者さんもみんな楽しそうなのが印象的でした。
100名規模の施設でできるなら、35名のデイサービスでもできるはず!と一念発起。スタッフの育成方針を転換することにしました。オールマイティな人材を育てるよりも、スタッフそれぞれの専門性を高めることに注力しようと考え、当番制から担当制に変えることにしたのです。
―当番制から担当制へ。スタッフの動き方を変えることで、どのような変化がありましたか?
担当制にしたことで、スタッフがやりがいをもって仕事に取り組めるようになったと感じます。例えばトレーニング担当なら、どのようなトレーニングプログラムを考えたらいいか、どのような声かけをしたらいいのか、などスキルアップを目指して積極的に勉強してくれています。利用者さんの声を聞いて「次はこうしてみよう」と工夫ができるようになりましたし、「失敗してもいい」「自分で考えてやってみよう」という雰囲気も生まれました。
また、余裕をもって準備ができるようになったこともやりがいにつながっています。担当制の導入で1ヶ月先のプランを立てるようにしたことにより、スタッフのシフトを2ヶ月先まで組むようになったのですが、「この日は(スタッフの)〇〇さんがいる日だから、陶芸をやろう」といったように余裕が生まれ、かつ計画的に準備ができるようになりました。
スタッフの動きを変えたことで利用者さんの動きも変わってきました。月間スケジュールを出せるようになったことで「この日に参加したいから、利用予定を追加します」といった利用者さんも出てきたのです。週2回の利用だったのが週3〜4回に増えた方もいらして、サロンの稼働率は85%を越えました。利用者さんが目的を持ってデイサービスに足を運んでくれるようになったのは、うれしい変化でした。
―「動き方改革」のひとつのきっかけに、ケアカルテの前身「ちょうじゅ」の導入があると伺いました。「動き方改革」に、ケアカルテ(ちょうじゅ)をどのように役立てていただけたのか、くわしく教えてください。
介護の現場では、記録をとるシーンが数多くあります。導入前までは全て手書きで記録をとっており、書き忘れや書き間違いがよくありましたし、書き忘れがあると「この利用者さんお風呂入った?」など確認作業に時間がかかり非効率的でした。今はタブレットでサッと入力でき、その日の予定が連絡ノートにも反映されるのでサクサク仕事が進みます。ケアカルテは環境に合わせて柔軟にカスタマイズができるので、アクティビティの材料費も自動で反映されるようにして材料費のもらい忘れをなくしました。ささいなことですが、細かい手間をなくすことの積み重ねで、利用者さんとのコミュニケーションなど大切なことに時間を活用できるようになりました。
「求められる介護」の提供に欠かせなかったのがデータ活用です。ケアカルテで統計を取るようにしたところ、利用者さんごとの好みのプログラムがパッと分かるようになりました。「これは人気だから継続しよう」「次のアクティビティにも人気プログラムの要素を取り入れてみよう」「下肢筋力のトレーニングが多いから、他のトレーニングもバランスよく組み込もう」といったように、データによる裏付けがあると自信を持ってプログラムを計画できます。利用者さんごとに参加メニューの偏りや避けがちなプログラムも分かるので、どう声かけして誘導しようか?と、具体的な対策を考えるきっかけにもなっています。
ケアカルテによって「予定の見える化」ができるようになったことも大きなメリットでした。
35名でひとつのフロアにいると、以前は誰が何をするのかを把握しにくい状態でしたが、今はケアカルテのおかげで「この利用者さんは、お風呂の後でアクティビティをするんだな」とひと目で予定を確認できます。「参加予定だけど、来てないな」ということも見てすぐに分かる。毎日の声かけも「今日は何をしましょうか?」から「今日の予定は〇〇ですよ」へと変わりました。スタッフから利用者さんへ声をかけやすくなり、コミュニケーションが円滑になったと感じています。
―「動き方改革」はスタッフに対してだけでなく、事業所内通貨に対しても同時に行なったとのことですが?
以前から事業所内通貨は運用していたのですが、ケアカルテの導入をきっかけに改めて1人200円をいただき、事業所内通貨の動き方も変えました。利用者さんがティータイムに飲食するおやつや珈琲を、その日の気分に合わせて自分で選んで事業所内通貨(マイカ)で購入できるようにしたのです。
マイカを貯めて品質の高い珈琲を飲む人もいれば、手軽な煎餅を買う人、ボランティアにきた学生にごちそうする人もいます。マイカはコップを拭く手伝いなどのアルバイトで貯めることもできます。ほかにもジャンボ宝くじに見立てた、マイカを獲得できるイベントなども職員が考案しています。利用者さんが自分の裁量でマイカを使うことができるようになり、利用者さんの余暇の満足度も上がります。利用者さんやスタッフの自主性に任せたマイカの運用で、所内全体が活性化しました。
週刊ケアカルテの記事をお読みの方におすすめ!
―今後のICT活用に向けて、「こんなシステムがあったらいいな」というご要望はありますか?
現在はケアカルテをデイサービスの内部で活用していますが、今後は利用者さんやそのご家族とのコミュニケーションツールとしてより外向けに活用していきたいです。例えば、リハビリの効果や参加したプログラムの内容をグラフで分かりやすく視覚化できれば「今月は知能面のトレーニングを頑張りましたね!」とフィードバックもしやすいので、利用者さんのやる気アップだけでなく、ご家族の安心感にもツナがると思っています。