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Long-term care Efforts Vol.22

介護の取り組み

“働きたい”と思わせる職場づくりで
採用力・定着力あるチームを目指して

社会福祉法人 鹿追恵愛会 特別養護老人ホーム しゃくなげ荘

北海道・鹿追町にある『しゃくなげ荘』は、雄大な自然に囲まれた特別養護老人ホームです。業界全体の悩みでもある人材難を、「働きたくなる職場を作るという視点で乗り越えた」と語る山本進常務理事に、その具体策について詳しくお話を伺いました。


 

人材確保のカギは「働きたくなる職場」づくり

―介護業界では人材難が長年の課題ですが、しゃくなげ荘には毎年学生が集まり、新卒採用に結びついているとお聞きしています。なぜ若い世代から応募が集まるのでしょうか。

今でこそ毎年のように新卒を採用できている当施設ですが、十数年間は人材難に陥っていました。なぜだろう?と情報収集すると、どうも厳しすぎる先輩がいるという噂が学生さんの間に広がっていることがわかりました。当時、受け入れをしていた実習生の立場から現場を見たところ、たしかに「仕事の厳しさ」ばかりを教え込もうとする雰囲気が感じられました。実習生が作成した計画書や報告書も、修正の赤ペンで必要以上に真っ赤になっているのが目についたのです。実習生や新しく入ってくれたスタッフのためを思ってこのような教え方をしてくれているとは言え、このままでは自信を失うだけでなく、施設のことを嫌いになってしまうのではないか、と危機感を持ちました。
そのような状況を知り、打開策について考えを巡らせた末「これからは仕事の厳しさを教え込もうとする発想を転換し、働きたくなる施設を作ろう!」と思い至りました。この「働きたくなる」という発想が、若い世代の方に響いたのではないかと思います。
 

―採用活動を強化するという視点から少し離れて、自然と人が集まる施設づくりを進めてこられたのですね。

人材が集まる施設、働きたくなる施設とは何だろうかと考えたとき、精神的にも身体的にも「疲労が少ないこと」が欠かせないと気がつきました。そしてこの二つを実現するには、『組織開発』と『業務改善』が必要だと考えたのです。
これらは別々の話ではなく繋がっていると思います。人材確保のためには良い評判が広がってほしい。良い評判のためにはケアの質と職員の待遇を高める業務改善が必要。業務改善をスムーズに進めるには職場環境を改善することが必要で、職場環境を改善し育て上げるには組織開発が必要…といったように、要素同士がうまく繋がり良い循環が生まれることを目指して、まずは組織開発から着手することにしました。


 

組織開発の教科書は「アドラー心理学」

―働きたくなる施設を作るための『組織開発』ですが、具体的にはどういったことを実施されてきたのでしょうか。

組織開発で目指したのは「心理的に安全な職場」で、言い換えれば「普通に話せる人間関係のある心地の良い職場」です。そのような組織を作るにあたって参考にしたのは「アドラー心理学」でした。若い頃はなんとなく苦手意識がありましたが、なぜか本は捨てずにいたのです。改めて読んでみるととてもしっくりきたように感じました。特に「心理的安全性はヨコの関係から生まれる」という考えが私たちにとって重要なテーマとなりました。
ヨコの関係は所属感・信頼・貢献という価値観によって成り立ちます。これは幸せに働くために欠かせない要素だと思うのです。幸せに働くこと、自分の人生を幸せにすること、そのためにはタテの関係 ― 他者との比較・競争をやめること。まずはこれらの考え方をスタッフの中で共有していきました。
 

―「心理的に安全な職場」という言葉がとても印象的です。実現を目指す中でスタッフの方々からの反応はいかがでしたか?

「普通に話せる職場」と聞くと簡単に実現できそうですが、元々「タテの関係」の中に身を置いているととても難しいことが分かりました。タテの関係から脱却するためには毎日発する言葉から変えていく必要がありました。そこで「教育・指示・命令をしない」「会話は問いかけることから」「他者も自分も大切にするコミュニケーションを心がける」ことをスタッフに伝えました。それでもすぐに実践できた訳ではありません。ベテランスタッフの方々から涙ながらの抗議を受けたこともあります。「私たちは学生たちのことを思って一生懸命教育をしている。優しく甘やかせということ?下手に出ろということですか?」と。私は「これからは指導者ではなく支援者になりましょう。指導ではなく、応援・勇気づけをしていきましょう」と伝え続けるしかありませんでした。
そして、研修や個別の対話を続けることで少しずつ職場の雰囲気が変わっていき、今では新人スタッフがベテランスタッフに気兼ねなくヘルプをお願いするといった風景も当たり前になってきました。例えば、利用者さんを移動するには介護ロボットなどを使うこともできますが、人と人で助け合う方がはやい場面もあるので、助け合いの生まれやすい「ヨコの関係」を育んできて良かったです。有給休暇を取りやすい雰囲気もできて、有休消化率は90%を達成。「明日は好きなアイドルのライブがあるから休みます!」「いいね!いってらっしゃい!」そんな会話が生まれる関係性が育ったらいいと考えていたので、実現できてとても嬉しいですね。


 

業務改善をサポートするICT活用術

―業務改善も人材獲得の重要な柱とされていたそうですが、そこでICTはどのように役立ちましたか?

業務改善で目指したのは、効率的に仕事を減らして身体的な疲労感をなくしていくこと。業務改善のコツはみんなが助け合う職場環境が育つこと、そして無駄を大胆に減らすことだと思っています。
ICTが役立った場面として印象的なのは、申送りの方法が変わったことでしょうか。コロナ禍で申送りなど顔を合わせて会話をする機会を減らさざるを得なくなりましたが、デジタルインカムのおかげで離れた場所からでも申送りに参加できるようになりました。全員持ち場に居ながらにして情報が得られます。インカム(ハナストのインカム機能)は音声だけではなく、テキストも残るので本当に便利です。わざわざ集まって申送りをしたり、人を呼びに行く手間を大幅に省くことができました。
このようにテクノロジーやICTの力を借りれば、仕事を減らすこと自体はそんなに難しくないのです。ですから、仕事をどんどん減らしていこうという提案は簡単に受け入れられると思ってましたが、いざ実践しようとすると仕事を減らすのは不安・怖いという反応も多いことが分かりました。これは大きな発見でした。真面目で優しいスタッフばかりなので「こんなに手を抜いていいの?」と感じたようです。

この不安を払拭するために活用したのは「ICTによる記録」でした。
例えばおむつ交換。真夜中に利用者さんを起こしてまで交換する現状を変えたいと思い、おむつ交換の回数削減を提案しました。今はおむつの性能がとても良くなっているので、排尿の量が少ない方なら思っている以上に長時間快適に過ごせるのではないかと考えたのです。スタッフの中からは「長時間そのままなんて可哀想」という声もあがりましたが、実際に記録をとって確認してみると1日に1~2回の交換でも快適に過ごしてもらえることが分かってきました。そうした根拠をもとに検討と実践を繰り返すことで、スタッフの不安を無くしながら業務改善を進めてきました。習慣は文化となって根付いているものです。


 

―ハード面の整備だけではなく「ICT活用をスムーズにするための組織開発」といったソフト面にも目を向ける重要性を感じました。ぜひ、今後の展望をお聞かせください。

最近気がついたのは、いくら「ヨコの関係でいきましょう」と理念的な研修をしても、実際に「タテの関係にとらわれていること」を自分で気づいていないと人は変われないということです。そういう意味では、机上の学習だけでは意味が無く、体験の場を作ることが管理者の重要な役目だと思っています。今は私が中心となって研修を進めていますが、今後は研修内容を体系化し、若いリーダーや他の施設の方でも同様に、組織開発を実現できるようにしていきたいと考えています。

お話を聞いた施設

社会福祉法人 鹿追恵愛会 特別養護老人ホーム しゃくなげ荘
サービス 特別養護老人ホーム
住所 〒081-0202 北海道河東郡鹿追町北町1丁目13番地
電話番号 0156-66-2588
サイトURL http://www.shikaoi-keiaikai.jp/shakunage/

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