北海道岩見沢市の「社会福祉法人北海道社会福祉事業団 福祉村」は、脳性まひなどの重度身体障がい者が安心して生きがいをもって生活できる「村づくり」をめざし、昭和54年に設立されました。
石狩平野の広大な敷地に、全室個室の住居棟、共同作業所、福祉ホーム、身体障がい者向けの道営住宅などが配置され、入所で220人、通所で20人が利用しています。
同施設が抱える慢性的な労働力不足の課題に、「支援記録のICT化」というソリューションをどのように導入し活用されているのでしょうか。福祉村総務部管理課課長の由谷啓太さんに伺いました。
恒常的となっていた
労働力不足の解決策を求めて
―ケアカルテ導入前の課題について「労働力不足」を挙げていらっしゃいましたが、当時の状況を教えていただけますか。
労働力不足、人員の不足が課題といっても、どこかの時点で劇的に変化したのではなく、恒常的に忙しい状態でした。トラブルや新しい試み、イベントなどが重なると、誰かが残業をしなくてはならない状況が続いていました。
常に募集はかけていたものの解決策が見出せなかったのは、福祉村だけではなく、岩見沢市の労働人口が減り続けていることも要因のひとつであったと思います。通常時でも業務が多岐にわたり、従業員の負担が多い上に、ミスやトラブルの再発防止のためのオペレーションでも負担は増していました。
以前のやり方では限界が来ていました。「何か手を打たなくてはならない」と会社としても動いていたのですが、決定的な手立てを模索するばかりでした。
「カスタマイズ」に光明を見た
ケアカルテとの出会いがICT化を加速させる!
そのような悩みを抱えている中、2019年に大阪で行なわれた「バリアフリー展」でケアコネクトジャパンさんと出会ったのです。
―「ケアカルテ」導入を決められたポイントとはどんなことだったのでしょうか。
「希望するカスタマイズに応えてくれる」ことが何よりも大きかったです。
以前もICT化は検討していましたが、ネックとなっていたのは「カスタマイズ」。何社かに問い合わせると、カスタマイズは不可能、データベースを活用する介護記録ソフトは仕様の変更が難しいと言われ、そういうものなのだろうと諦めていました。
ところが、ケアコネクトジャパンさんに話を聞くと「カスタマイズ可能」とのこと。これなら、長い年月使い続けてきたフローやマニュアルを活かしたICT化を実現できると感じました。
また、ケアカルテの「セキュリティ」面も決め手の一つでした。
ISO(国際標準化機構)やJIS(日本産業規格)を取得されていることはもちろんですが、クラウドでのデータ管理を希望していたのでこの点も導入にツナがりました。データを自分たちで管理することや、クラウドにコストがかかり過ぎることを懸念していましたが、ケアカルテでは解決できるので、導入を決めました。
―導入まではどのように進んでいきましたか。
2019年4月にケアカルテと出会い、9月には選定を行なっていました。長く模索していたのに半年経たずに選定していたのです。そのあと12月に試験運用、2020年4月には本格運用をスタートさせることができました。
使い慣れた業務フローやマニュアルは変更せず、そのままシステム化することはマストとしていましたが、できる限り仲間たちの要望を取り入れたいと考え、各部署の代表者による「ICT推進委員会」を発足させました。それぞれ上がってきた声を元に、現場が使いやすく、導入しやすいように協議を重ね、進めていきました。
ただ、導入後のイメージがうまく掴めていなかったこともあり、導入後にカスタマイズを繰り返しました。
例えば、導入前はプリントアウトしたものに承認印を押すことが強く求められていましたが、導入後はすべてネット上で完結できるようにしたいと要求が変わるなど、細かいことを何度もカスタマイズしながら完成へと近づけていきました。その度に相談に乗って実現してくれたケアコネクトジャパンさんには感謝しています。
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ICTの導入で大幅な残業時間減少!
今後もさらなる進化をめざして
―導入して良くなったこと、変わったことはありましたか。
変化は一目瞭然です!
まず、残業時間が大幅に減りました。前年と比べ年間2,260時間もの時間外労働を減らすことができたのです。
電話で行なっていた報告や引き継ぎは、「ケアカルテに記入してあるので確認してください」で完了できるようになりました。電話で受けた内容を手書きで残したり保管することがなくなったので、時間短縮と伝達ミスや漏れの防止にも役立っています。
また、関わるスタッフを集め、モニターやサイネージに記録を投影して、いっせいに情報共有したり、方針を決めることもできるようになりました。情報の入力回数や速度は軽減、共有や報告も時間短縮されるなど、スタッフのさまざまな業務を効率化してくれています。
そして、支援記録の数は5倍ほどに増大しました。
タブレット(ケアカルテモバイル)を使うと、項目をチェックするだけで記録できるなど、以前よりも情報記入に手間がかからなくなったことが大きな要因です。
今後は、その支援記録を情報資源として活用できるように整えることが、求められてくると思っています。
―この先はどのような展開をお考えでしょうか。
支援記録をICT化することで、課題であった労働力不足によるスタッフの負担は軽減することができました。
今後は、導入したからこそ見えてきた新たな課題や現場からの要望に取り組んでいきたいです。
例えば、ナースコールやバイタル測定機器といったIoT機器の記録を自動化し、支援記録との連動を求める声が現場から上がっています。ただし、なんでも自動化するのが必ずしも良いことだとは考えていません。ミスがなく記録を取ることはAIが担当し、気遣いや思いやり、経験が必要な場面ではしっかりと人が関わるべきだと思っています。
また、現場での運用ルールを整備するために、サーバを立ち上げてネット上にマニュアルをつくりました。ケアカルテの導入で一度役目を終えているICT推進委員会が、今は各部門からの意見や要望を検討し進化させていく役割を担っています。
現場の人たちがシステムを活用しやすく、利用者さんがより快適に過ごせるように、日々進化することをあたりまえにしていきたいです。