北海道釧路市の『長生園』は、昭和2年に設立された歴史ある養護老人ホームです。
施設の改築を契機にICT導入に取り組み、夜勤業務の大きなネックとなっていた「夜勤巡回」と「夜勤日誌」の完全廃止を達成されました。”ICT導入”とひと口に言っても「目的達成につながる機器の選定」「現場での機器の活用に必要な工夫」など、解決すべき課題は多岐にわたります。
今回は、社会福祉法人 釧路愛育協会常務理事であり長生園園長でもある髙橋功成さんにお話を伺い、さまざまな課題への取り組みを教えていただきました。
―ICT導入を決めた”きっかけ”を教えてください。
もともと職員の負担を軽減したいという想いがあり、施設の改築を機にICTの導入を決めました。
負担軽減につながる改善策を突き詰めて考えた結果、「配置人員の薄い夜勤帯の業務見直し」から着手することを決め、夜勤帯の業務として大きなウェイトを占めていた「夜勤巡回と手書きの夜勤日誌の廃止」を目指し、動き出したことがきっかけです。
―ICT導入にあたり「仕掛け」を施されたと伺っていますが、具体的に教えてください。
実は以前、職員の負担軽減を目的として取り入れた機器がまったく活用できず、無用の長物となってしまった経験がありました。自動排泄処理機という機器を提供いただいたので取り入れてみたものの、現場で使われることはなかったのです。この時、「管理職の一存で決めてしまうのではなく、実際に機器を使用する職員の意見が重要」と実感。職員自らが「ICTを導入したい」と主体的になるような、機運を高めていく仕掛けが必要だと考えました。
また『百聞は一見にしかず』というように、まずは実際にICT機器を見て体験してもらうため、施設の改築に向けて結成した「改築準備委員会」のメンバーを、ICT機器の展示会やICTを活用している施設の見学に連れて回ることからはじめました。
―ICT機器を見て、体験した職員さんの反応はいかがでしたか。
「ICTってこんなに進んでいるんだ!」「ICT機器があるとこんなに便利なんですね!」と、職員がICT導入に前向きになっていくのを感じました。展示会のために釧路から札幌まで車で片道4時間かけて出かけたこともあるのですが、意識が高まるあまり、帰りの車内ではひたすら意見交換になったほどです。
このように、ICT導入に対する気持ちが充分に高まってから、次のステップとして「現場職員の負担が軽くなる機器を一緒に選んでいこう」と機器の選定へ進むようにしたのです。
―選定する際に心がけていたことや、数ある選択肢の中からケアカルテを選んでいただいた決め手は何でしょうか。
機器の選定にあたり一番気をつけたことは、「夜勤巡回と手書きの夜勤日誌の廃止」という目的から軸がぶれないようにすることでした。
ケアカルテを選んだ決め手は、「さまざまな機器と連携できる」という点です。
選定を始めた当初、「機器の連携」は重視していませんでした。しかし連携機能が職員の負担軽減につながると知り、目的を達成できる可能性がより一層強く感じられ、「連携できる機器の多さ」や「カスタマイズの柔軟性」の観点から、ケアカルテを選びました。
―”ICT導入のプロセスに職員を巻き込む”という『仕掛け』をされたとのことですが、導入後は『定着』に向けて工夫されたことはありますか。
操作方法などは、職員同士で教え合う空気を作るようにしました。
まずはITに長けた世代の職員にくわしくなってもらい、彼らに広めてもらうようにしました。操作を教える担当者を作るより、すぐ隣にいる職員へ気軽に聞けるという環境は、ICTの定着にとても効果があったと思います。
―ケアカルテを導入されてみて、いかがでしたか。
ケアカルテを導入した理由のひとつが「カスタマイズの柔軟性」ですが、やはり重視して良かったです。
以前使っていたソフトはカスタマイズができず、かゆいところに手が届かない使いにくさを感じていました。ケアカルテでは、使っていた書式をそのまま使えるようにカスタマイズしていただけたので、現場のオペレーションを大きく変えることなく導入ができました。
お陰様で、第一の目標であった「夜勤巡回と夜勤日誌の廃止」も達成できました。そして、廃止によって職員の心理的負担が軽減されたことが、なによりもありがたいです。導入して良かったと心から思っています。
また、「ICT機器との連携」により自動でデータを記録できるのもとても助かっています。
記録されたデータは外部に説明するような時にとても役立ちます。例えば、利用者が病院で受診する際、眠りのデータを医師に確認してもらうといった活用もしています。それまでは見えなかった小さな変化を医師や看護師に伝えられるようになりました。
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―ICTに対して今後期待することはありますか。
現在、介護現場では記録することがどんどん増えています。ICT機器を導入していても、人が介在しないと記録を取れない場面はまだまだあります。そのようなシーンに向けて更に技術改善し、進出してくれたらいいなと感じます。例えば食事の場面では、職員1人で30〜60人分の記録入力が必要なので業務改善のネックとなっていますが、ここを自動で記録できればメリットはとても大きく感じられると思います。
ICTの便利さ、それによる負担軽減と業務の効率化は、導入して実感したことです。これからも、他の業務において改革を推進していけるように、機器の更なる発展に期待しています。