Vol. IKAsu IKAsu Vol. TUNAgu TUNAgu

Long-term care Efforts

介護の取り組み

迫る「BCP完全義務化」
事業継続戦略策定のポイントとは?

武田病院グループ

京都府で救急医療・地域医療支援病院を核に70の事業所を運営する武田病院グループ。
災害を乗り越えた経験から、業界に先駆けてBCP(事業継続計画)を策定した同グループより、本部介護福祉部部長である小林啓治さんに”本当に活かせるBCP策定のポイント”について伺いました。


 

―武田病院グループでは、約6年前からBCPの策定に取り組まれているとお聞きしました。完全義務化に先立ってBCPを策定するに至った経緯を教えてください。

豪雨による土砂災害の被害を受けたことがきっかけでした。
平成26年9月、京都が集中豪雨に見舞われた際に京都の山の中腹にあった老健施設と特養、この2つの施設が床上浸水に遭ったのです。「山の中腹」という立地でこういった災害に遭うことは想定していませんでした。山の上にある2箇所の砂防ダムにもともと木や砂が溜まっていたことで、豪雨の際に土砂や雨水をそのダムで受け止めきれず、施設に直接流れ込んでしまったのが原因でした。実際の被害が起きたのが夜中の2時半頃。『翌々日からは施設を再開する』という目標で、夜が明けてすぐ復旧作業に取り掛かりました。思った以上に大量の土砂が堆積しており途方にくれましたが、その時にふと、京都にある大学の災害ボランティアを行うサークルと繋がりがあったことを思い出しました。連絡をとると協力すると言っていただけたのです。学生さんが100人ほど応援にきて土砂のかき出しなどを支援してくれたことで、なんとか再開するところまで持っていくことができました。機械を入れてどうにかなる状況ではなかったですし、『事業を止めずにやる』という想いがあったので、初動対応でたくさんの人の力を借りることができ本当に助かりました。
そのような経験を今後に活かそうと、BCP策定に至りました。
 

―土砂災害に見舞われた当時は、まだBCPという言葉はそれほど介護業界で浸透していなかった頃だと思います。そんな中『オールハザードアプローチ』として他の災害に関してはどのように対策を練ってこられたのでしょうか。
※オールハザードアプローチ … 自然災害や感染症まん延、サイバー攻撃など、あらゆる危機を対象とした危機管理の考え方

BCPを作ろうにも介護業界の中では例がなかったので、中小企業庁のホームページに載っていたものを参考にしました。ハザードマップや備蓄品リスト、施設の図面などを揃え、緊急時にどういうことが起きどういうものが使えるかをプロットしていきました。それを今でも年々ブラッシュアップしています。
BCPの策定と併せてあらゆる災害や緊急事態を想定した訓練なども実施し、その訓練から得たものもBCPに反映させています。例えば停電です。施設の法定検査もあるのですが、あえて実際に停電を起こして非常用電源でどこの電源が使えるのか、どのくらいのことができるか、ということを経験するようにしています。そのような訓練を重ねることで、BCPもより実態に即したものにできると考えています。
ハザードのひとつとしてサイバーテロも想定していますが、『ケアカルテ』はクラウドにデータを残せるのでとても安心感があります。とはいえ、たった一人の油断から大きな問題にも発展しかねないので、職員の意識向上は常に課題として挙がってくるところです。


 

―組織として危機管理意識を高めるために工夫されていることはありますか。

忙しい日常の中で、普段から危機管理意識を高く持つのはとても難しいことだと思っています。ですので、常に情報共有できる環境を整えるようにしています。
例えば、グループチャットを活用して日頃から京都府や行政のニュース、台風や豪雨などの情報を流すといった対応です。そのような情報を見てもらうことで、例えば「建物の周りに風で飛んでいきそうなものがないか」を確認するなど、一人一人が自発的に動いてくれるようになりました。非常に助かっています。実際「台風が来る」という情報を流した翌日は、自転車やバイクが普段は置かないような(安全と考えられる)ところに置いてあったりします。「これどこに置いておこう?」と考えつつ、自ら判断して対応してくれているのだなと嬉しく感じています。災害時は正常な判断ができなくなると言いますし、こうして日頃から意識づけて体が勝手に動くくらいになるのはいいですね。
 

―災害時における『情報と記録の重要性』も感じていらっしゃるとのことですが、何か契機になったできごとはありますか。

例えば、熊本の震災を経験された方のお話を聞いたことが契機のひとつかと思います。
熊本のとある町では、地域包括支援センターが町の直営から委託に変わり、引継ぎをしているタイミングで震災が起きてしまったとのこと。安否確認などもしなければならない中、手元にはまともに情報がなく本当にどうしようかと思ったそうです。新型コロナウイルス感染症の流行前で他県からケアマネジャーさんなどが応援に来てくれたそうですが、なにせ手元に情報がないので、結局は応援に来てくれた方達に情報収集をお願いせざるをえなかったということでした。本来なら情報をもとに対応をお願いする形になるはずが、逆になってしまった。
この話を聞いて、有事に活かせる情報の扱い方・記録の仕方がいかに重要かを思い知らされたのです。
 

―これからBCPを策定しようという事業所に向けて、アドバイスがあれば教えてください。

まずは「厚生労働省が出している雛形の通りにBCPを一度作ってみてください」とお伝えしたいです。
実際に作ってみると足りないところが見えてくるはずで、そうした不足を補っていくことで自分の事業所オリジナルのものができていくと思います。策定したBCPをもとにシミュレーション、つまり頭の中で訓練をすることも重要です。作ったものの実際には使えない、形だけのものになってしまっては元も子もありません。
例えば、緊急時職員に召集をかけるという項目ひとつをとっても、住んでいる場所や小さいお子さんがいるなど家族の理由で、すぐには集まることができない人もいます。そのような状況をシミュレーションできていないと、有事に「どうして職員が集まらないのだろう?」と混乱しかねないですからね。厚生労働省もいざという時に使える質の高いものを求めていて、雛形もとても丁寧に作ってあるなと感じています。
『令和6年3月までに』という経過措置には、「自分の施設に合ったものを作って欲しい」という意図があると思いますので、ぜひ一度作ってみてください。

お話を聞いた施設

武田病院グループ
サイトURL https://www.takedahp.or.jp/group/welfare/index.html

『月刊ケアカルテ』へのご意見、ご感想をお寄せください

無料セミナー申込受付中