皆さんは「海外の介護事情」に興味を持ったことがありますか。
自身が勤めている事業所に”外国人技能実習制度”を利用して来日したスタッフがいて、外国の方と関わる機会が多い方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は数多くの国から「ベトナム」に焦点を当て、”ベトナムの介護”についてご紹介します。
ベトナムの介護を紹介する記事は3部構成となっており、第1部ではケアコネクトジャパンの社員が現地に訪問して聞いた「ベトナムの若者が抱く「介護観」とは」をお届けします。取材では、インターネットで調べてもわからないベトナムの実情やリアルな声を聞くことができました。この連載を通して日本とはまた違う”ベトナムの介護”を知っていただけたら嬉しいです。ぜひ最後までご覧ください。
ベトナムの若者が考える 自国の「介護観」
ベトナムの中でも特に暑いホーチミンの『グエンフエ通り』で、ベトナムの方がイメージする『介護』についてインタビューしました。この通りはホーチミン市の中心部にある主要な通りの1つで、多くの若者が行き交います。インタビューは主に10代から30代の若年層を対象に行ないましたが、取材を進める中で40代、50代の中年層の方の意見も聞くことができました。
まずは「介護」という言葉の存在や「ベトナムの介護職」「介護のサービス」について、聞いてみました。
Q. ベトナムには、“介護”という言葉がありますか?
- 介護ってどういうものですか? 病院でのケアなら知っているけど…。(複数名の回答)
- TikTokでベトナムの介護の動画を見たことがある。(20代 会社員)
- 看護師と介護士は別だということは知っている。(40代 会社員)
Q. ベトナムの介護職はどのような仕事だと思いますか?
- 看護師によるケアだと思う。忙しく、質はあまり高くないのではないか。(10代 学生)
- 難しい仕事だと思う。医療の知識が必要な仕事。(40代 会社員)
Q. 介護のサービスについて、どういったイメージをもっていますか?
- 要介護者の家族が忙しい時にサポートしてくれるので、介護のサービス自体は便利だと感じている。ただ、介護士は家族ではないため、仕事という意識で介護するイメージがある。(20代 会社員)
- 良いところも悪いところも両方あると思う。費用はかなりかかるイメージ。(20代 学生)
- しっかりとしたサービスを提供する施設は少なく、介護士は介護をくわしく知らないと思う。私の仕事が忙しいから家族が施設に入所していますが、とても罪悪感がある。できれば安心な日系のサービスを受けてほしい。(30代 会社員)
取材をしてみるとインタビューに答えていただいた方のほとんどが、介護と聞いて”看護に類似するサービス”を思い浮かべていました。しかし、その一方でソーシャルメディア(SNSやYouTube)を通して介護の情報を知った方もいたようです。これらの回答から、ベトナムと日本の間には”介護に対する認識の違い”があることがわかりました。
また、特に筆者の印象に残ったのは「介護サービスは忙しくて家族のお世話をできない時に便利」という言葉に「それでも”仕事”という意識で淡々と介護するイメージがある」と付け加えた方の回答でした。介護職の業務やサービスのイメージについては、プラスの意見はもちろんあるものの対照的にマイナスな印象をもっており、ケアの質や施設の環境、費用面で不安を抱えていることが多いようです。
自分や家族に介護が必要なときは…
介護サービスに対してマイナスなイメージを持つ方たちは「自分や家族に介護が必要になったとき」にどのように介助されたいと考えているのでしょうか。インタビューから読み取れるようにベトナムでは”介護”にあまり馴染みのない様子も見られるため、日本とはまた異なる価値観を持っているかもしれません。視点を変えて聞いてみました。
Q. 『家族』に介護が必要になったら、介護士にサポートしてもらいたいですか?
- 介護は自分たちの力で行いたいので、父のことは家族でサポートしている。家族に介護が必要になったら、家族の中で助け合うのが普通だと思っている。(40代 会社員)
- 家族で助け合って介護したい。外部のサービスは信用できない。(20代 会社員)
- 自分たちで家族をサポートしたい。(30代 会社員)
- 家族の人数が少ないので外部のサービスを受けたい。もちろんすべてを任せるのではなく自分でも様子は見たい。(学生)
Q. 『自分』に介護が必要になったら、介護士にサポートしてもらいたいですか?
- 家族はみんな忙しいから、私は病院でサービスを受けたい。(50代 会社員)
- 老人ホームに入りたい。家族に迷惑をかけたくない。(20代 学生)
- 家族は仕事で家をあけるので、日中に家で一人になることが不安。デイサービスみたいなサービスを受けたい。(20代 学生)
はじめに『家族に介護が必要になったとき』について質問すると「家族の介護は、家族で助け合って行いたい」といった回答がほとんどでした。
次に『自分に介護が必要になったとき』のことを聞いてみると「家族に迷惑をかけたくないから施設に入所したい」という考えをお持ちでした。
結果として要介護者が自分か家族かで正反対の意見があがりましたが、いずれの方も家族を思いやる気持ちが強く感じられました。「一人では不安だから誰かにサポートして欲しい」「家族に迷惑をかけたくない」といった想いは、日本と共通であることがインタビューを通してわかりました。
インタビューを終えて…
当記事では、ベトナム国民が考える自国の「介護観」についてご紹介しました。
インタビューを終えて、日本とベトナムの介護には大きな違いがありましたが、自らが介護を受けるときに思う気持ちは日本と似ているようでした。
日本では介護保険制度(2000年)の制定後、高齢化を問題視されるようになり、介護業界に携わっていない方でもニュースや新聞で介護の情報を耳にする機会が増えましたが、ベトナムは看護や医療ケアのイメージが強く、介護の言葉やサービスは今も浸透していないようです。それでも、自分が介護を受けるときは「家族や周りに迷惑をかけたくない」「介護サービスを受けたい」と感じる若者も少なくありません。「介護サービス」に対する認識に違いはあっても、必要なことはたしかです。
第2部では「介護職種の技能実習制度」に着目。制度にメリットはあるものの、送り出し機関の学生が介護業界の実態を伝えられることなく訪日し、実習先の様子にギャップを感じてしまうといった問題が起きています。
それらを問題解決に導くために、とある取り組みを率先して行う送り出し機関を取材しました。ぜひご覧ください。