日本のエーゲ海と呼ばれる岡山県・牛窓。のんびりと海風や自然を感じられる場所にある「特別養護老人ホームあじさいのおか牛窓」には、2018年より企業主導型保育事業として『キッズあじさい』2021年より『キラリあじさい』が併設されています。
高齢者施設と保育施設との併設によるメリットや、開園前から開園後の利用者の様子など、ケアコネクター山下が施設長 兼 園長を務める三石哲也さんにお話を伺いました。
職員の声からの保育施設併設
(ケアコネクター山下)保育施設を併設しようと思ったきっかけはなんですか?
(三石施設長)オープンしたのは平成30年の7月1日からだったんですが、その2、3年前に産休の職員がけっこうおったんですよ。その時から「託児所は?」みたいな声があって。
理事長もほかのところから企業主導型保育事業の話を聞いていて。開園するにあたっての資金やらをいろいろと調べていくうちに、これだったらやれるかなと。
当時、高齢者施設の職員さんにもアンケートをとってみようかなと思って、対象になりそうな職員19人くらいに聞いてみたんです。料金はいくらじゃったら利用したいかとか、何時から何時までオープンしていたら助かるか、とか。その結果を見て「これならやれるんじゃないかな」ということで保育施設を併設することに決めました。
それと、同系列の法人が保育園を運営してて、いままでの経験から保育士の確保が難しいのも聞いていて。うちの高齢者施設は24時間だから、24時間の保育所は難しいので、保育士がなかなか確保できないという懸念はありましたね。
だけど、日中12人の最低人数でいけばなんとなるかなと。
事前アンケートには「タダだったらいい」とか(笑)「通勤が楽」だとか「すぐ職場に行けるとか」そういう回答が多かった感じです。
小規模で「しっかり子どもをみていきたい」を前面に
(三石施設長)当初は保育士確保への懸念はあったのですが、これが意外と保育士が集まったんですよ。役場からも人員確保が大変じゃからとすごい聞いていたから、そこは想定外じゃったなと思っていて。その後も募集出したらすぐにくる(笑)
いま100人とか200人の保育所が多いじゃないですか。結局、保育士さんも疲弊しているんですよね、たくさんの子供をみるのに。モンスターペアレンツみたいな方もいたりして。残業も多い、超過勤務も多いみたいな。
うちは定時には極力帰すようにしたり、仕事の持ち帰りはさせないとか。とにかく小規模で「しっかり子どもをみていきたいって」いうことを前に出して求人しているから、比較的すぐに応募がきてますね。周りが思っているほど保育士の確保って面ではあんまり困らなかった。
(山下)もともと看護師さんがいるような職場だから、病児にも対応できてたりしますね。
(三石施設長)最初に売りにしてたのは、看護師・理学療法士・作業療法士がいるとか。「歯科衛生士が口の中見るよー」とか「管理栄養士に食事のこと相談できるよ」とかも売りにして。「社会福祉士が相談受けますよ」とか、ほかの保育所では絶対にあり得ないことだからこれも売りになるかな。
(山下)あずける方からすると、いろんな職種が同じ敷地内にいると何かあった時にも安心ですね。
(三石施設長)そうですね。だけど、まだ情報発信がうまくできてないから、ほんと知らないんですよ、ここに保育園があること自体を。
昨年くらいからやっと役場でも認可保育園の一覧の下部に名前を載せてくれたりとか、「空いとるよ」ってのを役場の担当者に教えてあげると、保育園を探している人に紹介してくれたりとか。
でもまだまだ知らない人が多いので、情報発信の仕方は今後の課題ですね。
自立心が芽生える子どもの育成 -保育目標-
(山下)高齢者施設に勤めているスタッフで、お子さんを保育所に預けている方は何人くらいいますか?
(三石施設長)まだちょっと空いているところもあるんですけど『キッズあじさい』が定員12人中10名いて、地域枠が3人、連携企業枠が3人、残りの4人が職員。もうひとつの『キラリあじさい』も10人いて地域枠が2人、連携企業枠が3人、残り5人が職員のお子さんです。
(山下)クラスは分けているんですか?
(三石施設長)全員一緒。一人っ子が多いと思っていたから、家では一人だけどここに来たらお兄ちゃんお姉ちゃんの役割になったり、逆にお兄ちゃんお姉ちゃんが居たりだとか。そういうところで思いやりの気持ちだとか相手の立場に立てる行動がとれたらええなと思ったら、意外と3人兄弟だとか4人目じゃとか(笑) 多いんな、兄弟ゆうて(笑)
ここ瀬戸内市は第3子以降は無償なんですよ。今年うちに復帰するスタッフの子も3人目なんで、はよ現場に戻ってきてほしいから認可と同じ4500円にしたら「実はうちも第3子で」って話が何人か出てきて(笑)
3歳くらいで他の大きい保育所に行くだろうと思っていたけど、けっこう大きい年齢の子が残ってて。それは想定外で、結局残って良かったってことなので嬉しい話ですが(笑)
今年、『キッズあじさい』ができてからずっといた子が初めて小学校にあがって、学校の先生とも「こんな子ですよ」っていうやりとりがあったりとか。
普通の園だとクラス替えなどもあるんだろうけど、ここはオープンしてからひとつの園で4、5年くらいずっと一緒。だから『キラリ』を新設したときに保育士の配置換えをしたら、園児から「施設長、なんでかえたんなあ」ってクレームが出たり(笑)
デメリットよりもメリットの方が大きかった
(山下)保育所をはじめてみたら想定外のこともあったけど、わりと良かったことの方が多かった感じですか?
(三石施設長)僕自身は開園して良かったと思っています。
核家族が進んでいて、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に住んでいない子どもたちが多いだろうと思ってたから、こういうところでお年寄りのことを知る機会にもなる。最近はコロナであまり関わりはできないのですが、幼児とお年寄りどっちにとっても良いかな。デメリットよりもメリットの方が大きかったですね。
子どもと接するにはお年寄りとは違う緊張感はもちろんあります。子どもも発達しているけど、子どもと接することでお年寄りも元気になって発達している人もいるし。いろんな意味で勉強にはなっていますね。いい方向には動いているんじゃないかなとは思ってます。
(山下)令和2年度のアンケートでも、良いご意見が多かったですね。
子ども一人ひとりの発達状況に即した
一人ひとりの個性を大切にした保育 -基本理念ー
(山下)働く人の朝の時間って、子どもの送迎であったり、けっこう大変じゃないですか。職場に来るタイミングで預けられるっていいですよね。
(三石施設長)そうですね。何かあったら内線ですぐ連絡できるし。
あとは保育の中身を充実させていけたらええなぁって思ってて。気になっているのは、児童一人ひとりに1年間どんな計画・目標を立ててどこまでさせてあげるんか、とか。
あと、子どもが保育所で誉められたことが、場合によっては家では「なんでそんなことしよんで」って言われてしまうことが現実に起きるんですよね。
やっぱりその辺を保育所と保護者がしっかりコミュニケーションをとっとかにゃいけんし。だから子ども一人ひとりに担当の保育士をつけて面談をしてるんですよ。
目標もきちっと立てて、共有して。この目標に対してお母さんと一緒に取り組んでいこうという。立てた目標が達成できたんだったら、次の目標へいきましょうと。
定期的に保育士養成の面談することで保護者との関係も近くなるし、それができたらすごくいいなぁと思って。学校の先生からすると、それは理想的だけど現実なかなか大きな保育所ではできんと。そんなんできたらすごいと思うから、じゃあやろうかな、と。
以前にはリトミックとかもしてたんだけど、コロナでできなくなって…。EPAで外国からの職員がいるので、母国語の教室みたいのができたらいいなと思ったり…。インドネシア語講座とかベトナム語講座とか。そんな保育園なかなかないじゃないですか。フィリピンの子もおるから英語もいけるし(笑)
外国人職員が業務で来ているときにするとか、副業みたいな感じで手当を出すとか。いろいろやり方があるんじゃないかなと思ってて。どうせするなら楽しい方がええじゃないですか。こっちが楽しいってことは、たぶん子どももお年寄りもスタッフも楽しいじゃろうし。いろいろ勉強になってええんじゃないかな。
介護助手をうまい具合に活用
(山下)保育所の併設のほかに取り組んでいることや、これから行なっていきたいことはありますか?
(三石施設長)この6月から介護保険でできないサービスを独自の自主事業みたいなかたちでしようかなと思っている。ヘルパーだったら窓拭きだとか家族のご飯は作れない…だとか、そういう声も聞いてて。僕もケアマネやってたからよくわかるし、介護保険外のことをヘルパーでしようかなと。介護保険外だから資格がなくてもできるじゃないですか。そこで無資格者を雇って、その人たちに初任者の資格を取ってもらってヘルパーに切り替えるとか、そうやって人の確保もできるかなっていうのがひとつあったのと、デイサービスの空き定員を活用して元気の良い人たちを自主事業の方で受け入れるとか。
うちは介護助手さんもけっこう多くて。最近やっと国も「介護助手」の名前がいろんなところに出てきてるじゃないですか。うちはけっこう前から進めてて、この介護助手をもうちょっとうまい具合に活用できんかなと思ってて。それが資格のいらない掃除だとか草むしりとかそっちに使えないかなぁと。
インタビューを終えて…
三石施設長が談笑しながらケアコネクターの山下とのインタビュー取材に応えてくださっていたのがとても印象的でした!
「子供と接していると自分も若返ってくるようだ」と笑みがこぼれるようすが、保育所の運営が三石施設長にとっても充実した業務だということを物語っているようでした。
保育所以外にもICT化への取り組みや看護助手の活用などを精力的に推進しているあじさいのおか牛窓さま。
今後も取り組みや活動の経過などお伝えできれば幸いです!