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Long-term care Efforts

介護の取り組み

職員採用率アップにつなげるコツ
〜介護人材確保に向けた取り組みの紹介〜

社会福祉法人 さわら福祉会 特別養護老人ホーム マナハウス

福岡市西区の特別養護老人ホーム「マナハウス」。透析患者など医療の必要な人を受け入れ、”医療に強い特養”として地域の利用者から高い人気を誇っています。特筆すべきは、介護職員の採用力。職員の医療的ケアに対する技術力の向上とICTを活用して働きやすさを整備し、介護職を目指す学生に人気の職場となっています。採用力アップの秘訣を、施設長の小金丸誠さんに伺いました。
 

介護実習を契機に職場の魅力をアピール

―毎年、新卒学生を迎え入れているそうですが、どのように採用活動を行なっているのでしょうか。

私たちは毎年介護実習を受け入れており、そこに来た学生が実際に入職してくれるパターンが非常に多いです。実は多くの同業者がここ2年コロナ禍で介護実習を断ってきたのですが、私たちは逆にどんどん受け入れてきました。元々、コロナ前から実習は積極的に受け入れていた経験もありましたし、施設の職員の中には介護福祉士養成校の卒業生が多かったので、学生にとって実習はとても重要であることを実感していたのです。介護実習は、現場職員にとって仕事が増えることになるので簡単ではありません。ただ、自分達の仲間づくりだということを理解してくれているので、気持ちよく迎え入れてくれています。
 

―実習の受け入れの際に意識していることはありますか。

やはり実習自体が”就職先選びの場”であると自覚することが大切ではないでしょうか。養成校の学生向けアンケートでは、就職先を選定する中で一番参考にするのが「介護実習」と回答されています。良い面も悪い面も実習を通して伝わるでしょうから、諸刃の剣ではあるけれど、それを分かった上で入職してくれるので長く働いてくれる人材の確保につながると思います。
実際、うちに入職する理由の多くが「人間関係のよさ」です。中には、誤嚥性肺炎への取り組みなど医療的な強みを決め手にする人もいますが、“実習に来た時の雰囲気が良かった”という人が圧倒的に多いです。職員同士のコミュニケーションや職員と利用者さんとの関係を実習生はよく見ているので、そこから自分に合う社風かどうかを汲み取っているのではないでしょうか。

介護福祉士養成校 新卒採用

◾️2015年度 2名 ◾2016年度 4名 ◾️2017年度 3名 ◾️2018年度 2名
◾️2019年度 4名(留学生1名含む) ◾️2020年度 2名 ◾2021年度 3名(留学生1名含む) ◾2022年度 2名  合計22名
 

「休みやすい環境」を全職員に意識づける

―施設のフロアに足を踏み入れた瞬間に、職員さんも楽しそうな笑顔で、利用者さんと話している様子もいい雰囲気だなと感じます。職場の雰囲気づくりで工夫されていることはありますか。

自分の施設にいると人間関係の良さは他と比較できませんが、外部の方が来られて感じられるのが正しい評価なんでしょうね。
実は過去の離職率は、年間33%くらいだったと記憶しています。そこから2年間、働きやすい環境づくりに力を入れました。特に職員に問いかけ続けたのは、「働きやすい環境ってなに?」ということです。「働きやすい環境って、休みやすいってことじゃない? それって”お互い様”の気持ちだよね」と。
例えば勤務が入っている日にお子さんが熱を出して保育園や学校から呼び出しがあるとします。現場の人が早退に対して「え〜」と非難するか、「大丈夫だよ、早く行っておいで!」と気持ちよく送り出せるかは、大きく違います。どちらも結局、早退する事実は変わりませんが、“働きやすい環境”は圧倒的に後者ですね。人生って、良いイベントも悪いイベントも、みんなに起こります。若い頃には結婚や出産、年齢が上がると子の病気や親の介護などがあったりと、休む時もあるけれど、だからこそ復帰できるようになったら”お互い様”で頑張ろうよと話しています。そんな話を2年ほど言い続けたら、だんだんとみんなの意識が変わってきました。実は当初この考え方に共感できない人がいたのですが、たまたまその人がご家族を看取られる時に休みを取りました。看取りというのは1ヶ月か3ヶ月かいつまでかかるか分からないものですが、その時周りのみんなは「大丈夫、僕らが支えます」と言って送り出しました。そして職場に復帰するとその人の意識はガラッと変わっていました。今では、“誰もが休みやすい環境作り”を率先してくれています。

ICTは“当たり前”の環境をつくる

―“働きやすさ”を求めた結果として高まった採用力。制度として具体的に実施していることはありますか。

例えば、有給休暇を勤務表に最初から入れていくようにしています。休みをしっかり取っているおかげで、病欠で休む人が随分減りました。また、特に新卒学生にとってメリットと感じられるのが、職員寮でしょうか。ワンルームのアパートですが、駐車場1台込みで5000円。水道・光熱費はほぼ定額なので、ひと月1万円以内で暮らしていけます。
そして何より、ICTを使ったことが大きいです。私たちはケアカルテをはじめ、さまざまなIT機器を導入しています。働きやすさに一役買っているのはもちろんのこと、新卒採用に大きく影響しています。というのも、今や介護福祉士養成校ではどんどん介護ロボットや見守りセンサーなどのICT機器を学びに取り入れていて、学生さんのほうが詳しいくらいだからです。学校の先生に尋ねると「実習先の施設でICTを何も取り入れていないと、学生の選択肢には入らない」とまで言われるほど。特に福岡市内は学生の半数は外国人。喋ることはできても書くことが苦手な彼らにとって、ケアカルテのようにスマートフォンを使って介護記録を入力できるかどうかは、職場選びのポイントにもなるでしょう。ICTを取り入れる職場とそうでない職場、どちらで働きたいかということです。ICTを導入している介護施設には、これからどんな介護をしていくかというビジョンが見えると感じています。
 


お話を聞いた施設

社会福祉法人 さわら福祉会 特別養護老人ホーム マナハウス
サービス 特別養護老人ホーム(69名)/ショートステイ(11名)
住所 〒819-0032 福岡市西区戸切3-20-8
電話番号 092-811-5528
サイトURL http://www.sawara-fukushikai.org/

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