人員配置の割合を改善しながら、介護の質も上げていきたい。どうやったら実現できるだろうか?と、お悩みの経営者さまは少なくないのではないでしょうか。
福岡県福岡市西区にある「美の里(みのり)」では、入念な準備期間を経てICTを導入し、人員配置の割合を改善し続けています。今回は、美の里でユニットリーダーとして現場をリードしてこられた川端拓海さまに、現場目線のICT化についてお話を伺います。
―現在、「ケアカルテ」や「ハナスト」を現場で活用していただいていますが、導入のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
介護業界は常に人手不足との戦いです。多くの事業所が、いつか人手不足に陥ってしまうのではないかという不安をお持ちだと思います。私たちもそんな不安を抱く事業所の一つで、限られた人数で業務を遂行しながらも、質の高い介護を提供できる体制づくりの必要性を感じていました。そのためにはやはりICT化が欠かせないだろうと、導入が決まりました。
―数あるソフトの中で、「ケアカルテ」や「ハナスト」をお選びいただいた決め手は何でしたか?
「”ながら記録”ができる」ということが大きな決め手でした。ICTの導入に向けて、どうしたら業務を効率化できるかを分析するためスタッフにヒアリングをしたところ、「記録業務」がネックになっていることが分かりました。ICTの導入前は基本的にアナログでの記録が中心でしたから、記録のたびに介護の手を止めなければなりませんでしたし、排泄確認表など手書きチェックシートも多用していました。ですから、ソフト選定のために展示会へ足を運んだり、すでにケアカルテやハナストを導入されている施設へ見学に伺ったスタッフは「すごい!モバイルでの記録入力や音声入力ができるって、こんなに便利なんだ!」と、とても驚いたそうです。
―導入にあたって工夫したことはありますか?
早い段階、およそ1年前からスタッフへ告知があったこと、そしてスタッフに対して、現場では何が問題になっていてどんなソフトを導入したら解消できそうかヒアリングがあったことが、導入に向けた工夫の一例です。やはり実際にソフトを使うのは現場のスタッフがメインとなりますし、導入となれば大きな変化がありますから、上層部の一存で決めてしまうのではなく「みんなで意見を出し合って決めること」と「こまめにコミュニケーションを取ること」というプロセスはとても大事だったなと、今振り返ってみても感じますね。
導入後は若手職員を中心に操作を覚えてもらいました。新しい機器を使うことに慣れているためか、2週間ほどで使いこなせるようになっていましたね。一方ベテランスタッフの中には最新の機器に対応できるかと不安を抱いている方もいましたが、若手職員が作ったマニュアルや説明のおかげもあって比較的スムーズに受け入れてもらえたと思います。
―導入されてみて、使い勝手はいかがですか?
とても便利に使わせていただいています。記録に関しては、ハナストのおかげで、お皿洗いをしている時や介助をしている時でもハンズフリーで記録ができるようになり、時間を大幅に節約できました。もちろんマスク着用の影響もあってか多少の変換ミスはありますが、必ず音声入力後の確認はするようにしていますし、確認自体もサッとできるので問題ありません。外国人従業員の中には日本語で話すのがあまり流暢でない方もいたので、音声入力ができるか心配でしたが、実際に使ってみると問題なく入力できて安心しました。意外なメリットとして現れたのは「持ち物が減ったこと」。ハナストがインカムのような使い方もできたことで、機器を減らすことができ、ポケットにいくつもの機械を入れたり腰に吊り下げたりすることがなくなりました。
―目標としていた効果は得られたでしょうか?
記録のICT化によって記録業務が効率的になっただけでなく、情報の閲覧も移動不要で行えるようになりました。美の里はユニットが3つあるのですが、どのユニットに居ても情報が自由に確認できるというのは本当に便利ですね。このようにあらゆる業務が効率化されたことで、限られた人数のスタッフでも業務が回せるようになりました。それによってお客さまと関わる時間が増えたり、スタッフが休みやすくなったりと、お客さまにとってもスタッフにとっても嬉しい効果が出ています。数字にすると、これまではお客さま1.8人に対し1人のスタッフがついていましたが、導入後はその比率が2.4:1にまで上がっています。
―これからシステムの入れ替えを予定している事業者さまへのアドバイスはありますか?
美の里で導入が比較的うまくいった要因は、コミュニケーションを大事にしたことだと思っています。スタッフが誰も知らないうちに導入が決まってしまうのではなく、上の人たちから「何が問題だと思う?」「何をどうしたらいいと思う?」と親身に聞いてもらえたのが良かったなと。あとは、導入前にデモ機を触る機会をつくるのもおすすめします。実際に触ってみることで不安を軽減することができ、導入がよりスムーズになるはずです。
―今後の展望をお聞かせください。
現在は見守りカメラの導入も進めており、居室にはカメラが少しずつ配置されています。以前使用していたセンサーでは、センサーが反応して急いで駆けつけても実際は布団がはだけてセンサー上に落ちてしまっただけ…というような、本来であれば不要な訪室が一日を通してよく起こり、スタッフとお客さま双方にとって負担になっていました。ところがカメラがあると、映像を確認すれば緊急かそうではないかが分かる。今後は見守りカメラやセンサーを導入・整備して、長い目で見て、介護の質にも効率的な経営にも良い効果をもたらすようにICT化を進めていきたいです。