通所介護の現場において、送迎計画業務の負担は非常に大きなものです。
その計画業務にAIの力を利用することができれば…スムーズな送迎計画の作成が可能となり、介護の質を向上させることにつながります。今回は、送迎支援システムを開発されているパナソニック カーエレクトロニクス株式会社の粕谷健一さんに、AI技術の応用事例や導入のメリットについてお話を伺います。
―御社が送迎支援システムを開発されたきっかけを教えてください。
きっかけは、パナソニックグループが提供している「パナソニックエイジフリー」という介護サービスに携わる方から、介護業界における送迎業務の負担の大きさについて耳にしたことでした。私たちパナソニック カーエレクトロニクスは、もともとカーナビを使ったテレマティクスサービス(運行管理サービス)を提供していましたから、そのノウハウを介護事業にも活かそうとサービスを展開することになりました。
―数多くある業務の中でも、送迎に関連する業務の負担が大きいことは、私たちも耳にします。
通所介護サービスにおいては、業務のうち約3割も送迎関連が占めていると言われています。「送迎を制すものは介護を制す」とまで言われるほど、業務全般の中でも大きなウェイトを占めているのが送迎業務なのです。そんな送迎をスムーズに回すための要になるのが「送迎計画」です。ところが、この送迎計画の作成こそが複雑で難しく、多くの施設ではベテランの方にしかできない業務となっています。なぜなら、送迎計画を作成するには御利用者様ごとのさまざまな条件を考慮しなければならないからです。例えば、”この御利用者様は長時間座っていることが難しい”といった条件をはじめとして「車の定員は何名か」「時間指定はあるか」「御利用者様同士の相性」といった要素を条件として考慮します。車内でトラブルがあると危険ですからね。このように細かな情報を把握していなければならないため、どうしても新人さんには難しい。その結果ベテランの方にしかできない、いわば職人仕事になってしまっているのです。
―業務が属人化してしまっているのですね。やむを得ないとはいえ、その人がいなければ成り立たないというのはとてもリスクが大きい状態ですね。
本当にそうだと思います。送迎計画を作成する方にとっても「私がやらなければ」という状態は、精神的な負担が大きいはずです。この問題を解決するために、経験の浅い新人スタッフでも簡単に送迎計画を作成できるようなシステムをつくろうと開発したのが「DRIVEBOSS」です。DRIVEBOSSでは、AIを活用することでベテラン職員さんの頭に入っている御利用者様の状態、御利用者様同士の相性、車の定員などさまざまな条件が全て満たされ、かつ全体効率が良くなるような送迎計画がとても簡単に作成できます。
―開発にあたって、こだわった点や大変だった点を教えてください。
こだわったのはUI(ユーザーインターフェース)です。介護業界はPCをはじめとする機械に苦手意識のある方が多い業界。ですから、そういった方々にもシステムを受け入れてもらえるよう、親しみやすく、直感的に使えるUIにこだわりました。そのために参考にしたのはホワイトボードでした。送迎計画などを掲示するのにホワイトボードを活用している施設は多いため、その慣れ親しんだやり方を大きく変えることなく操作できるよう工夫しています。この点は実際に利用している方々からも好評を得て「マニュアルが無くても直感的に操作できる!」という声もいただいています。
―AIが作成した送迎計画の評価はいかがでしょうか?
概ね高い評価をいただけたのですが、「AIによって最適化された送迎計画よりも、ベテランの方による慣れ親しんだ送迎計画のほうがいい」という声もありました。そこで最近のアップデートでは、ベテランの方が作成した送迎計画1ヶ月分をAIが参照し、ベテランの方が作成したものになるべく近い計画を作成できる機能も追加しています。
―使っていくうちに、効率だけでなくベテランの方が蓄積してきた現場のノウハウも反映されるのですね。どのような機器でも導入初期に苦労されることが多いと思いますが、DRIVEBOSSではいかがでしょうか?
仰る通り、どのようなシステムでも使い慣れるまでは「通常の業務」+「使い方を覚える」という二重の業務になってしまうため、運用が定着する前に挫折してしまうこともあると聞きます。弊社ではまずは1ヶ月間無料で体験していただき、介護スタッフの方が使いこなせるようになり運用が定着するまで、伴走支援させていただいています。
―実際に導入された施設ではどのような効果が出ていますか?
ベテランの方が送迎計画の作成業務から解放され、介護サービス提供や営業に注力できるようになりました。中には送迎計画業務を80%も削減できた事例もあります。ケアカルテと連携すれば御利用者様の基本情報やスケジュールを自動でDRIVEBOSSに取り込めるので、あっちにもこっちにも入力しなければならないという二重の手間を省くことができ、さらなる業務効率化につながります。またDRIVEBOSSのオプションサービスには、ドライバーの方が持つスマホに送迎計画が連携される機能や、ナビ機能を使ってルート案内をしてくれる機能もあります。スマホのGPS機能を活用して車がどこにいるか確認することも可能です。こういった機能を使えば、新人さんや普段送迎をしていない方でも安心して送迎業務に入ってもらうことができ、人材を育成する時間も短縮できます。
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―今後の展望をお聞かせください。
2018年にサービス提供をスタートしてから、これまでに1,000を超える施設で導入していただきました。ですが日本国内のデイサービスの数はおよそ43,000、まだまだ一部の方にしかお届けできていないのが現状です。今後は国内事業所の大多数を占める小規模・中規模の事業所にも導入していただけるよう、認知を広げていきたいですね。これからの時代、少ないリソースで新たな社会課題に立ち向かわなければならないシーンがたくさん出てくると思います。そのような社会課題の解消に向けて、DRIVEBOSSで貢献していきたいと考えています。
〈問合せ先〉
パナソニック カーエレクトロニクス株式会社
〒140-0013 東京都品川区南大井6-22-7 大森ベルポートE館11階
WEBサイト:https://www.panasonic.com/jp/company/pce.html
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