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Long-term care Efforts

介護の取り組み

ICT導入は効率化のためだけではない!?ケアの質そのものを高めるICT活用法とは

社会福祉法人 宣長康久会

富山における介護DXのトップランナーとして、革新的な取り組みをされている社会福祉法人 宣長康久会。2017年に開設された『特別養護老人ホームささづ苑かすが』では、ケアカルテをはじめとするICT導入の結果、記録量5倍・残業大幅削減・完全ペーパーレス化を達成。新たに『特別養護老人ホームささづ苑』でもICT導入が決定し、さらなる躍進が期待されています。今回は、同法人でICT導入を牽引してこられた介護事業部・部門長の吉野英樹さんに、ICT導入による効果とこれからの展望についてお話を伺います。


 

―記録量5倍、残業の大幅削減など、さまざまな成果を上げられて私たちも驚いています。法人内の施設で新たに導入を決定されたとのことですが、決定に至った背景を教えてください。

最初は同じ系列の事業所である『ささづ苑かすが』でケアカルテが導入されました。ささづ苑かすがでは、初めこそ現場職員の間で戸惑いもありましたが少しずつ慣れていき、今では記録量が導入前の5倍に達しています。記録量は増えましたが、記録時間が増大したということはありません。以前は終業間際から記録を書き始めることもありましたが、今は誤字脱字を確認する程度で済むため残業もほぼありません。記録量の増加には「ハナスト」での音声入力も大きく影響しており、今後は記録入力の8割を音声で行なうことが目標です。そのような成果を受けて『ささづ苑』でも今年(2023年)の10月1日にケアカルテを導入することになりました。今は導入に向けて準備をしている段階です。


 

―ICT導入前は手書きでの記録も多かったのでしょうか?

以前は手書きのチェック表なども使っていましたが、その場その場でチェックはできても記録としては残せていないことにもどかしさを感じていました。オムツ交換や入浴、食事量などの記録を残すことができれば体調の変化などを捉えることができます。導入後はこういった日々の記録を、負担を増やさずこれまで以上にしっかり残していきたいですね。ケアカルテとハナストがあれば、お風呂からリビングへ移動する時や食事のお膳を下げる時などのスキマ時間にも入力することが可能になります。『ささづ苑』はいわゆる「従来型」の施設なので「ユニット型」に比べて導入のハードルが高いのではないかと思いますが、従来型でも導入できることを示していきたいですね。

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ささづ苑かすがでは導入2か月で既に記録量が2倍に。
ご利用者さまの「背景」や「想い」を記録に残す取り組みをしているが、
ICT活用により記録時間は減らすことができている。

 

―「ユニット型」と「従来型」では、導入の進めやすさにどういった違いがあるのでしょうか?

ユニット型では10名前後の少人数単位でケアをさせていただくので、ご利用者さま一人ひとりが今、どのように過ごしているかが把握しやすいです。例えば家族と家の中で過ごしている時って、家族が目の前にいなくても「今はきっと部屋でテレビを見ているのだろうな」と把握できることがありますよね。そういった感覚に近いと思います。一方、従来型はたくさんのご利用者さまを複数の介護職員が担当するため、そういった把握の仕方は難しいです。実際に見て確認しなければ安心できないため、介護職員の目や耳などアナログ的な感覚に頼ったケアが深く根付いています。そういった点で従来型はユニット型とくらべてICTの導入が難しいのではないかと考えています。
 

―従来型の施設にICTを導入することで、どのような効果が得られそうですか?

従来型はユニット型に比べて、仕組み上「個別ケア」がしにくいと言えます。少人数なら一人ひとりの要望にお応えできますが、大人数ではなかなかそうはいきません。食事や排泄の時間が定められており、一人ひとりに合わせたケアを提供するのが難しいのです。ですが、従来型でも個別ケアの提供は不可能ではないと考えています。ケアカルテの導入をきっかけに、ケアそのものを変えていきたいですね。ケアカルテ導入の目的は効率化や負担軽減だけではなく、ご利用者さまの生活を守ること。ケアカルテでしっかり記録を取りながらも一人ひとりのケアの時間を増やしていくことで、それが実現できるのかなと考えています。
 

―ICTの導入によって一人ひとりのケアの時間を増やしたり、ケアそのものの質が変わっていったりすることが期待できるのですね。ケアの質を高めるために取り組んでいらっしゃることはありますか?

『ささづ苑』ではICT導入に向けて準備をしている段階だとお話ししましたが、具体的にはご利用者さまの「背景」や「想い」を記録に残す取り組みをしています。当然記録量は増えますが、ケアカルテとハナストの活用で残業は大幅に削減できることはすでに『ささづ苑かすが』の取り組みでも実証できています。そもそも残業が起きる理由は、ある程度ケアが終わったタイミング、すなわち終業間際に記録の入力作業が始まるからです。なぜケアが終わってからなのかというと「利用者さまがいるところで記録をしてはいけない」という考えが根強いからではないでしょうか。実際私も若い頃そのように教わりましたが、よく考えてみると記録そのものはご本人が見てもまったく問題ないはずですし、ケアプランというのはご利用者さまの生活を記録しているわけで、ご本人が納得できる内容になるようむしろ一緒につくっていくもの。ハナストを使ってご本人と会話をしながら目の前でリアルタイムに記録をつけていくのは、むしろメリットのほうが大きいのではないかと思います。
 

―利用者さんの背景や想いを入れた記録にすることで、どのような効果がありましたか?

「事実だけを書いた記録」と「背景や想いを入れた記録」とでは、ご利用者さまの見方が全く変わってきます。例えば「急に『帰りたい』と言われ、むりやり扉を開けられた」という記録と「一人の時間が長くなったことで寂しくなり、急に家に帰りたいと思ったご様子だったため、コーヒーを飲みながら少し一緒にお話しをしました」という記録とでは、受ける印象が違います。誰が読んでも「この人はこういう想いを抱えていたんだね」と分かりますし、ご本人が読んだ時も納得がいくはずです。記録をとる介護職員自身も、行動の背景や想いを捉えた記録を心がけることによって「どうしてそのような行動を取ったのだろう?」「次はどうしたらいいのだろう?」という視点を養うことができます。原因を考え、次に活かす。そういったポジティブな記録はやはりご利用者さまもそのご家族も嬉しいですし、職員も前向きな気持ちになります。その前向きな気持ちがご利用者さまとの関わり方にも影響してくる。そんな良い循環が生まれているなと感じます。
 

―完全ペーパーレス化についても伺います。職員さんへの意識付けだけで実現できるものでは無いと思いますが、どのように進めていらっしゃるのでしょうか?

運営サイドでは完全ペーパーレス化を目前にしています。やはり職員への意識付けだけでは実現が難しいので仕組みから変えていきました。ペーパーレス化に向けて初めに取り組んだのは、保管義務のある書類のデジタル化です。それを皮切りに電子印鑑を取り入れて決裁をペーパーレスで完結できるようにしたり、勤務変更届や残業代の申請などもPCでできるようにしたり、と進めました。会議では資料の閲覧もメモを取るのもすべてPC上で完結させています。書類はNAS(ネットワークHDD)に保管するルールなので、どこからでもデータを確認することができます。
現場にも排泄や体温のチェック表、手書きの連絡帳など書類がたくさんありますが、ケアカルテがあればこれらも無くしていけると思います。現場におけるペーパーレス化に向けて一番難しいのは、現場で働く職員の方々の心理的ハードルをいかに下げるか、でしょうか。ずっと手書きで行なってきた歴史がありますし、慣れ親しんだ方法を変えるという抵抗感は多かれ少なかれあるはずです。ですので「楽になるから、まずは使ってみない?」と声をかけて、とにかくポジティブに捉えてもらうよう心がけています。

電子印鑑導入前後の変化について示した図。起案から決済までの期間が大きく減少している。

 

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―今後の展望をお聞かせください

ケアカルテの活用に関しては、集計業務の効率化を進めたいですね。地域運営推進会議や行政とのやりとりの中で、現在のご利用者さまの動向など集計資料が求められる場面が多くあります。今後、そのような集計をケアカルテ内で行なえるオプション機能(CAREKARTE Pivot)がリリースされる予定だとお聞きしたので、集計業務も楽になる、と大変期待しているところです。
ささづ苑でのケアカルテ導入はこれからですが、従来型の施設でもケアカルテやハナストを活用することで一人ひとりに合わせたケア、ご利用者さまの背景や想いを大切にしたケアが提供できるんだ、ということを証明していきたいです。

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お話を聞いた施設

社会福祉法人 宣長康久会
サービス 特別養護老人ホーム、地域密着型特別養護老人ホーム、短期入所生活介護事業所、地域密着型特別養護老人ホーム、通所介護事業所、居宅介護支援事業所、大沢野・細入地域包括支援センター
住所 〒939-2226 富山県富山市下タ林141番地
電話番号 076-467-1000
サイトURL https://www.sasazuen.or.jp/

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